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まさか寝たわけではないだろうがどうしたのだろうか。
僕は身を起こし、ベッドに戻ろうとした。
「なっ……」
黒い影が動き、僕を包む。そして遅れて衝撃。
どうやら都和が僕に向かって落ちて来たらしい。
まだ目が慣れていないがなんとか僕は無防備に落ちて来た都和を捕まえれたらしい。
「スキンシップが過多なのはどうしてなのさ」
返事はないが、吐息を顔に感じる。
かなり近い。
「な、なに?」
遮光カーテンなのか部屋の明かりを消してしまうと月明かりすら届かない。幸いながら僕が落ちた近くのテーブルに携帯を置いていたので僕はそれを頼りに都和の顔を覗き見る。
薄暗く、下から光を当てるとまるでホラーだが僕は楔の言葉を思い出していた。
目の色が変わって五秒間。
「……」
思わず息を飲む。
一体いつからなのかはわからない。
都和の抵抗は無駄だったのだろうか。
僕はなんとか口を動かす。
「裏都和なんて言えば良いのかな?」
こちらに余裕を含ませて言おうとしたが見事に失敗した。震えた声が僕の不安さを相手に伝えてしまっている。
逃げようにも、都和の身体は僕のお腹に自身のお腹を重ねているようになっており直ぐ様逃げられるようにはなっていない。
「危害は加えない」
目元だけ笑い、そんなことを言いながら僕のパジャマの下に指を這わせる。
「これって抵抗しても?」
「出来るものなら」
片手で僕の手を抑え込まれた。
力を入れてもびくともせずに都和のもう一つの手が僕のパジャマのボタンを撫でるように開けていく。
閉めている状態を開けている状態へ。
反転能力。
僕をこの場所へ連れて来た元凶。
「……怯えているのか。心を委ねろ。力を抜け。私はこれでも味方だぞ」
都和の声で抑揚もなくそんなことを言われても全然説得力はない。
「都和から出ていきなさ……いっ!?」
胸を撫でられる。
ひんやりとした手がくすぐったい。
しかし、嫌悪には至らない。
「一つ、呪いを解いておくが。決してこの秘密を知られないように。君は迂闊だ。自分がどう見られているかを知っている方が良い。それにどのような呪いがあるのかを知っておくほうが良い」
「そんなことを言われても……っぉ!?」
胸の先と下腹部を執拗に撫でられる。
「あ……あ……待って」
忌避、嫌悪、マイナスの要素が少ない。
高揚感。多幸感に包まれる。
夢を見ているかのように身体が浮いた気持ちへ。
「周の身体を私が入りやすくしておく」
あれ、いつの間に僕はキスをされていたのだろう。
でも良いか。
こんなに温かい気持ちになれたのは久しぶりなのだから。