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「おかえりーってどうしたんだ?」
ベッドに座っていた都和が携帯から目を離し僕を見るなりそんなことを言う。
「着がえの服がなかったので」
「だからってメイド服を楔に借りたのか? 顔が真っ赤になってるぜ。恥ずかしいなら着ないで良いのに」
おそらく僕の顔が赤いのは別件だが。うー、精神が乱れている。
僕が小夜を女の子として見たということになる。そんなつもりは一切考えていないつもりだったが意識させられてしまったようだ。
都和にパジャマを用意してもらい僕は手早く着替えてから、寝る準備をしつつふとあることに気付く。
「脱衣所で脱いだ服を忘れた」
痛恨のミス。
「それなら洗いに出しておいた」
それを都和がナイスセーブする。
洗っている人が下着を確かめていないことを祈りつつ、他愛もない会話をしつつ寝ることにした。僕はベッドに横になる。
「諦めが良いんだな」
電気を消してから都和が僕に近づく。
掛け布団一つしかないのでするりと入ってくる。
「……僕のやる気を損ねたらどうなるかわかっているよね?」
軽く牽制。
「でも、片付けの際に抱き枕も片しちゃったし」
ないと寝れないのか。
「今すぐ取って来なさい」
「消灯が十一時ぐらいだから今行くともれなく怖い!」
「僕が取ってくるから」
「逃がさん!」
ぎゅっと後ろから羽交い締めにされた。いや、拘束力は弱いけれども。
「起こしてくれなかった罰だ」
胸を背中に押しつけられる。
柔らかく、ずしりとした感触が僕に伝わる。
都和さん……まさか下付けてないのか。
軽いスキンシップのつもりだろうが僕にとっては一大事だ。
「んーっ!?」
さすがに頭の中は混乱した。
十字キー操作は反転して、仲間も攻撃しちゃう的な。
「やあ、ちょっと洒落になんないから……!」
「あれ、周って男だっけ?」
きっと意地悪そうに笑っているのだろう。暗闇かつ後ろ向きだからわからないし、わかりたくもないが。
「これでも頼りにしてるんだぞい」
都和は軽く悩みに対することを口に出した。少しだけ真面目であったが、僕の混乱は続いていて。
「んぅ……!」
僕は逃げるためにベッドから落ちた。
「大丈夫か?」
「次したら出ていってやる……」
楔さん、あの部屋を下さい。
「こういうの嫌いか? 私は安心するのに」
「苦手意識が強いの……」
僕が弱点を話すと、ふと都和が静かになった。
布が擦れる音がしないので動いているわけでもないが。
「都和?」
返事はない。