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楔は難しい表情をして考えだした。僕に伝える内容を吟味しているのだろうがその表情が持ったのはわずかだった。
「んー、ごめんなさい」
小さな欠伸を一つ、噛み殺せず口元を手で隠していた。
「少し待ってね。まとめるから」
そう言う楔の眼鏡の奥は明らかにやる気があるようには見えない目つきである。それを見ながら僕は楔が眠たそうにしているのを初めて見るので失礼ながらレアだと思った。
「有用なことがあるの?」
聞きながら壁掛け時計をちらりと見る。時刻は十一時を回る前だが楔は仕事が多いためか疲れているようだ。
「んー、仮説が多い話になってきますね」
「興味はあるけれど、今日はもう終わりにしようか?」
僕から終わりにすることを提案した。
「あら、良いんですか」
「すぐに解決したくても時間かかりそうだからね。それに僕も眠たくなっちゃった」
転校初日だから仕方がない。どちらかというと転校より、ちいろにされたことが一番堪えたけども。
「じゃあ忠告だけ。目がオッドアイのときはすぐに逃げなさいよ。能力発動までに大体五秒かかるから」
その情報を利用できるかはわからないけれど、僕は楔に別れを告げて先に部屋を出た。これは勿論関係を秘密にすることであり、僕が先に出たのは施錠する必要があるためだ。
部屋に戻りながら頭を整理させる。当たり前だが情報は集まったものの、すぐにすることはあまりにない。
裏千華とじっくりと話すべきだろうか?
彼女が協力してくれたら僕の抱えている問題は一発で解決する。
だが素直に協力してくれるとは限らない。あのとき小夜がいなかったら僕はどうなっていたやら。
それでも、目標の実現のために一回は試して見るのも悪くはないか。
上手くいけば御の字だ。
「裏千華と話すときは小夜と行けば安全に話せるかな」
対価に何を求められるかは心配だがある程度は何を言われても我慢しようと思う。