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「わかっているだろうけれど僕は都和に女の子にされました」
楔は頷く。真剣な眼差しとなった。
僕も話の腰を折らずに淡々と語っていこう。
「都和の能力は反転で、僕は彼女の違う人格によって変えられた。僕の目標は男に戻ることと、都和が裏の人格に乗っ取られないようにすることを目標にこれから動いていくつもり」
「ふーん。それでどっちを優先するの?」
鋭い質問だ。遠慮がない。
悩んだふりはせずに僕はすぐに答える。
「僕は自分を優先するよ」
自分を優先する線引きは大事だ。ずるずるとこのまま依頼を増やすことになると僕の目標がいつになっても達成できなくなる。
「わかったわ」
楔は僕の意思を目で笑った。どうせ都和を優先するんでしょと言わんばかりだ。
否定はしたいが、そうなってしまう気はするので僕は目線を外さず楔を見た。
僕が流されやすいからこそ、楔には僕のすることを修正してもらいたいのだ。
「明確にしていきましょう。この世界は願いごとに満ち溢れています。単純なものや複雑なもの、上品なものや下品なものと様々ですがその願いごとを捻じ曲げられる人がいます」
「それが、都和達?」
「そうね。千華は天想代力なんて言っていたわ。私は願いごとの結果を呪いだなんて言っているけれど、決して悪い方向に行っているものばかりでもないと思うわ」
善き行いをしているのは僕は知らない。
都和を乗っ取ろうとする人格が千華と同じ裏千華だと仮定すると、善行なんてする気配はないが。
気分屋で自分勝手だし。
「オッドアイは見たわね。あれは言わばスタンバイモードよ。願いごとを能力に変換する上で必要だと思っているわ。丁度、こんな風にね」
そう言うと、楔の目が綺麗な宝石を思わせるオッドアイとなった。
右が赤く、左目は青い。
「楔も能力が使えるの?」
「まだよ。一種の仮説だけど、呪いを受けた人は段々とこういう風に能力に目覚めていくかもしれないと思うわ」
すーっと目の色が戻っていく。自在に出来ることらしい。
その仮説は初めの人がいたことを意味する。誰が、どんな理由でばらまいているのか。気になるが悩んでいてもわからない問題なので今回はその問題を片隅に置いた。
「人格については私も千華から聞いているわ。乗っ取られるみたいね。能力の代償みたいだけれども全員が全員ではないそうよ」
「待って、都和以外にもいるの?」
ため息を吐かれた。
そんなにも僕はいけていないことを聞いてしまったのか。
「ここの寮は天想代力を持っている子しか入れてないのよ?」
そうなのか。そうなのか。
「だって……あんまり都和が教えてくれないし、情報持ってないし……」
「情報量に偏りがあるのね」