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「うぅう……」
「ちょっと、周?」
精神的に参った。それに楔がいるせいか安心してしまい、緊張の糸が途切れてしまった。
「ああもう全く。部屋を使いたくなかったのに」
決断は早く。そういって僕の手を取り、脱衣所から出てすぐ横の部屋に案内してくれた。
「使用人の部屋その一。滅多に使わないし、鍵は私しか持ってないわ。だからこそ、二人でいるのが見つかったら関係に嘘は吐けないわよ」
そういうリスクを背負って案内してくれた。僕は心の中で感謝する。
中は家具やベッドが揃っているがそれ以外何もなく生活感を感じない。
ベッドに座らされ、ついでに持ってきたバスタオルでぐしゃぐしゃと髪をかき乱す。ちいろと全然違うがそれが嬉しくも思う。
「どうする。一人になりたい?」
「いや、頑張る……」
涙を堪える。
またもやバスタオルしか着てないし、ベッドに余すことなく水滴を付けてしまっているけれども。
「一応聞くけど、どうしたのよ?」
「セクハラにあってた」
「……セクハラするような人はいないと思っていたんだけれどね」
すでに僕は都和と小夜とちいろにされている。それどころか目の前の楔もトイレに入ってきたではないか。だがそんなことは掘り返さず僕は疑問を口に出す。
「僕ってそんなにもセクハラされやすそう?」
「セクハラされにくそうではないわ」
そんなもんか。そんなもんなのか。
「ほら、見た目はひ弱な清純派に見えるのよ」
驚愕の事実。いや、そんなことはない。ひ弱であるのは認めるが、どうみてもインドアで闇のオーラを纏っている系女子ではないか。清純なんて水や光を表す言葉は不適当だ。
「……スプレーある?」
「生憎ながら虫よけしかございません」
髪の毛の色を変えたかったが無いのなら違う方法を探さなくては。
それよりも先に。
「助け合いだったよね? 助けてくれない? 僕がセクハラに合わないように……じゃないと本当に死ぬ。もうやだ……帰りたい……」
切実な話題から。
僕は結構切羽詰まっているが、楔にはため息を吐かれた。
「指を折られても、屋上から飛び降りるときも涼しい顔をしていた人にはどうも見えませんが」
「それは過去。セクハラ受けるぐらいなら学園の屋上から飛び降りても良いです」
「なに言ってるの。あのときのような偶然はもうないんだからね」
怒られた。しかし、それがどこか僕は心地よく思う。
「スキンシップ過多なのはわかったけれど、それは女の子だから仕方ないわ。胸を揉まれたら揉み返すくらいしなさい」
それが出来ていたら精神的に参りはしない。
「右頬を打たれたら左頬を差し出す僕にそんなことは出来ないです」
「そんなかったるいこと言っていると、下着も上着もなし崩しになくなるわよ」
もっともだ。そもそも善人になりたいわけではない。
今度、もし危険な状態に陥ったらどうするか。なんらかの抵抗手段を身に付けなくてはならない。