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ありがた迷惑なのだが、断るのも違和感を与えてしまうので僕はお願いした。
「っと、湯冷めされると困るし」
ちいろはバスタオルをもう一枚僕に渡した。
結構潤沢にバスタオルを使っても良いらしい。僕はそれを膝かけのように使い、身体を拭いたのは肩からかけるようにして使った。
ちいろは人の髪を乾かすのに慣れているのかドライヤーの熱が気にならない。
「サラサラだな。手入れはどーしてるんだ?」
「のびのびとさせております」
自然乾燥派。ただし、それは妹に阻まれていたけど。
実を言うと性別が反転して体格は変わったが、髪の毛は変わっていない。
反転は本当によくわからない。もしかすると僕の知らないところが変わっているのかもしれないし。
ふと、ちいろの手が止まった。
乾かし終わったのかと思い、振り返ろうとすると質問された。
「なあ、周……ちょっと失礼なこと聞いていいか?」
「なにそのクッション言葉。別に良いけど」
「今日、髪洗った?」
「……洗った洗った。超洗ったよ」
ぐっ、鋭い。
正しくはお湯洗い。シャンプーは付けてない。家ではちゃんと洗っているが、今回は楔との約束に間に合わせたかったから適当になったのである。
すると僕の頭にちいろは顔を突き入れた。
そして、ゆっくりと吸気する。
「な、なに」
「……お前もかぁ!」
吐き出す呼気に合わせて怒られた。
僕以外にも濡らすだけで済ます子がいるらしい。
「いや、ちょっと」
僕はバスタオルを剥がされ浴室に連れて行かれる。
ちいろは適当に下着を脱ぎ棄てると僕に座るように命令する。
そう、もはや強制である。
十分の間にお風呂に入るのは無理な話だったのであった。
勢いの良いシャワーで折角乾いた身体は再度濡れた。
「目を閉じてろ。それともシャンプーハットがないと嫌か?」
「無くても良いです! って自分で出来るからぁわわばばば……」
途中でシャワーをかけられ喋れなくなってしまった。
僕は借りて来た猫より身動きせずじっと耐えた。
「たくっ、伊織といいなんで髪を洗うのが適当になるんだか」
「生徒会長?」
「ああ。前に来てたときはまるで適当だったぜ。金持ち過ぎると髪を洗うやつもいるのか?」
知らないけれども。どうでも良い知識が出来てしまった。
結論から言うとちいろは髪の毛を洗うだけあってか、美容師のように洗うのが上手であり気持ち良かった。
「……ん」
しかし、気になるのは密着。ちたちらと肌が接触するのが毒だ。
別に興奮するからではなく、身体が拒否している。忌避だ。
身をよじらせて接触を防ぐも、ちいろはそんなことお構いなしに鼻歌混じりに二回戦に突入した。
どうやらシャンプーは二回派らしい。
「痒いとこないか」
お決まりのセリフに僕は気の利いたことは言えず、心としか言えなかった。
「さすがにそこには手が出せんわ」
「逆にそこまで出されたらファンになっちゃいます」
「勘弁してくれ……よし、しゅーりょーっと」