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切り替えが速いのが僕の長所なので無理やり自分を納得させ、見えない勝負の行く末を見守った。
「貴方の敗因は……弱いだけです」
声が上から聞こえてふと宙を見ると、忍者よろしく天井に張り付いた小夜が裏千華の髪の毛を持ち指を鳴らしたところだった。
パチンと小気味の良い音が鳴ると壁に刺さっている数多のナイフが裏千華に引っ張られるように戻って行き、グサグサとザクザクと突き刺さる。
さすがに綺麗に刃の部分に当たるものは少なかったがそれでも黒ひげ危機一髪よりかは沢山刺さっていた。
痛々しく見えるが、血は噴き出さないので何らかの特殊なものではないかと勝手に想う。
「あ」
小夜と目が合って、重力を思い出したかのように二人は落ちてきた。
小夜は猫のようにくるんと回転し、綺麗に着地した。僕は咄嗟にぐたーっとなっている裏千華をキャッチ。
二階以上の距離であったが、小夜が何らかの方法を使って重さを軽減したためかそこまでの衝撃は無かった。
そして、奇しくもお姫様だっこになってしまった。
「あー!」
小夜は大声を出す。
「な、なに?」
よく見れば小夜の髪を束ねていたリボンは解れており、制服もところどころ破れているところが多い。
それなりにサービスシーンにも見えるが残念ながら劣情は催さない。
というか、体型に恵まれた裏千華を見ても何とも思わなかった。
性欲を感じないのはちょっとだけ男としてまずいと思いながら相対する。
「お姫様だっこ……」
「いや、不可抗力だからね」
「ちゃんと糸で宙づりにしていましたから大丈夫でしたのに」
目を凝らしても糸は見えないが、力を抜いてみると確かに重みが減るけれどもさすがに見逃すほど薄情ではない。
「小夜は強いんだね」
「えへへ」
素直に喜ぶ。無邪気だ。
それにしても玄関ホールは大惨事だが大丈夫なのだろうか。
壺や絵画に沢山ナイフが突き刺さっている。僕の家まで楽々に交通費が出そうな壺は今は無残に小さくなり増えている。破片ばらばら事故。
「あ、心配しなくても元に戻せますから気にしないで下さい」
そういって、小夜は指をもう一度鳴らすとゆっくりと物が動き出し修繕が始まった。
それはまるで導かれるように。小夜の服も、裏千華の服もゆっくりと元に戻っていく。
「こんなことも出来るんだ」
「説明しますので……ちょーっと待って下さいね」
無垢な笑みを浮かべながら僕の腕から裏千華を奪う。
どうやら僕の腕にいるのが嫌だったみたいでそのまま部屋に送りにいった。担ぎ方は怒りを含んでいるためか米を担ぐように肩で担いで行ったしまったけれど、玄関先のソファーに寝かせないで部屋に送るところを見ると優しいようだ。
取り残された僕は少しだけ状況を整理しながら待つことにした。