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「大物なのかにゃー?」
腕が届きそうな距離まで近づき、そこで止まる。
「ああ、小夜ちゃんは安心してよね。全身の力をすこーし弛緩させているだけだから五分もしないうちに元気ビンビンになるのらー」
嫌な言い方をされた。
それは男に使う擬音語だと思う。
だが、何も言わず僕は小夜を抱え直した。
軽いが力が入っていないと中々手から滑り落ちそうだ。
「……えーっと、裏千華さん」
「ちゃんちゃん」
話を勝手に終わらせやがった。
「呼ぶときはちゃん付けが良いなー。だって、その方が女の子扱いされているもの。それとも、子ども臭くて嫌かにゃ? いまどきはパワハラ問題もあるから容易に呼べないって? でも、自分はいつだってガラスの十代。ぶろーくんはーとでどんな呼び名にも挫けないよー」
苦手なタイプだ。真面目に話さない。
都和とはまた違う会話のかき乱しで困惑する。むしろ疲弊がひどいことになってきた。
「裏千華……ちゃん」
「はいはーい、お呼びですかにゃ?」
猫のように媚びたポーズを取る裏千華に多少の呆れを含ませながら僕は尋ねる。
「僕に何をさせる気」
僕の足りない情報が告げる。
恐らく、裏千華こそが都和を助ける道だと。
僕は覚悟を持って立ち向かって。
「なーんにも?」
後悔した。
肩すかしが多い。
「いや、むしろ何にもしないで欲しいんだなーって。幸せの青い鳥は近くにいて、遠くの花はいつも綺麗な状況っていう終末期の世界みたいな閉鎖空間にいつまでも自分達は居たいって願望は大事にしてあげなきゃね」
「一体、何をしたいの?」
「囲うつもり。逃げないように」
意地悪く笑った。
「だからなーんにもしないで二週間過ごしてくれたら周ちゃんの願いごとをなんでも叶えてあげるよー? 破格でしょおー?」
きっと、僕はここで頷けば最短になるだろう。
心にしこりを残して帰ることを良しと思えば。
「周さん……」
小夜は片足に力を入れ、僕の負担にならないように立とうとする。しかし、まったく力が入らないとこから回復したとはいえ、それでも支えないと倒れそうなため結局は変わらない。
「頷いて欲しいにゃー。そうじゃないとレベルⅠの勇者がむぼーにも裸一貫で魔王と闘うみたいな展開になっちゃうよー」