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「私は目を閉じるから三十分後に起こして欲しいな」
「了解。僕は少し動くことにするよ」
まずは信頼できる楔に会うことに決める。
情報がなければ動きようがない。
僕は都和の寝息を聞いてから部屋からするりと抜け出した。
食堂の方にいるだろうと予想をし、またも僕は一階へ。
だるい腕をストレッチしながら階段を下りる。
「リバース」
玄関先から僕はまた、幼い声を聞く。
「こんばんは、周さん」
ソファーから立ちあがるとスカートを軽くたくし上げ、僕に小さくお辞儀する。
無垢な笑みは変わらず僕には眩しい。
「……小夜?」
しかし、先程とは決定的な違いがある。
内気過ぎる性格ではなく、初めに会ったときのように積極的な方だ。
それに都和と同じように右目が赤く、左目が青くなっていた。
「なに、どうしたの?」
「私のセリフですよ。周さんが聞きたいことがあるのではないかと思い、ここで誰よりも先に待機していたのです。だって、見ていましたから」
ぐいっと詰め寄って来られて、僕は一歩たじろぐ。
その反応を見て、小夜もたじろいだ。
「うぅ、いや、好意ですよ? 純然たる好意で……下心は否定しませんが私は周さんの役に立ちたくて待っているくらいで……別にお姫様だっこされたくてここでまっていたわけではなくてですね……」
弱気なのか強気なのかはっきりして欲しい。
「僕が疑問に思っていたことを解決できるってわけ?」
「そんなわけにはいきませんが、それでも私は少し答えられます……だから、私もそのぎゅっと抱えられたい……」
今一つ小夜の脅威を感じ取れない自分がいた。
外見に騙されているのだろうか。
やはり、好意ってものは扱いにくいと強く思いつつ僕は情報を手に入れるべく小夜に近づき抱きしめた。
「や……嬉しいですけど私もお姫様だっこ志望で」
「……一つ聞くけど、こういう場合都和に嫉妬しないの?」
「口にキス以上は嫉妬しますが、それより下であれば寛容なのです」
なんの線引きなのかはわからないが、気を付けようと思う。
恐らく病みそうだ。愛情の裏返しほど怖いものはないし。
「仲が良いのですね」
そんな熱愛場面を僕が探していた相手に見られてしまった。
穴があったら入りたい。
小夜は小夜であまり隠す気はないらしく、くるりと僕の後ろに隠れ僕から離れない。
「良かった。楔に用事があったんだ」
僕はあえて、小夜についてをぶったぎるような話の展開をしてみた。
秘儀、あえて話題に出さずに有耶無耶にする。
「十一時以降であれば誰もお風呂に入る人はいないので好都合かもしれませんね」
楔はというとさらりと燃料と酸素を投下してまるで風のように去って行った。
あまりに自然体に去られてしまい、後ろ姿にかける言葉が出なかった
「……ん」
いや。
楔なりに場所と時間を指定してくれたのだろうか。