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「能力の副作用」
やっぱりなのか。
「副作用……?」
「待って、そこは断言しようよ」
そうじゃないといつまでも曖昧だ。
「能力を使うたびに身体が能力が使いやすいような身体や人格になっていくんだ」
真面目な話のトーンになり、僕は少し驚く。
これって、それって、もしかして。
「僕がここに来たのって……」
「いや、それは私の趣味」
ずこー。
転ばないけれども。
「だが、私は周とゴールデンウィーク中に最初にあったことを覚えていない」
「どういうことさ」
「私の人格が周を傷つけたのか、それとも私の人格が周を救おうとしたのかよくわからないんだ」
単純に僕が男に戻るのは難しいということだろうか。
目的が金魚鉢に透かしたように歪んでいても見えただけ今はマシと捉えた方が良いのだろうか。
「学園にはこんな都和みたいな能力の子はいるの?」
「少なくとも、千華は確実に。あとは楔と小夜は仄めかしたことは言うけど私は三人に対しては秘密にしているからよくわからないんだ」
これは、きっと。
「どこでこんな力が漏れるか知らないし、言いたくない。一人は嫌だから。一人になるくらいなら、死んでも隠し通す」
都和にとってのSOSサインだ。
日常生活上で、腰に見えない銃を持っていてそれがいつ暴発するかわからない恐怖と自分自身が無くなる恐怖と闘い続けていた都和に僕は。
「聞かなかったことにする?」
「いや、聞いてくれ。運命共同体にしちまったから。少なくとも、この学園に来たということはそれだけの覚悟を持ってきていると信じて私の秘密を託す」
買いかぶりだ。
僕が助けを差し延ばすような殊勝な男ではない。
きまぐれで、自分勝手で、それでいて閉鎖的だ。
だが、運が良い。
この学園に楔がいてくれたおかげで、活動していたときの気まぐれな心は前を向いている。
「十万円」
「え?」
「僕と楔が中学生のときに困った人に提示していたお金の額になるの。中学生の十万円は大金だし、だって悩みの大半は時間と共に消えちゃうから人の覚悟を見るときに使ってたの。だから十万円くれる?」
「手助けしてくれるなら財布から出すけど」
これだからお金持ちは。
前向きの心が時計の短針一つ分は動いたぞ。
僕はぱっと用意できない額を頭の中でルート二秒考え請求した。
「……一千万円!」
都和はにこりと笑う。
「うん、助けてくれ」
僕は小さく頷いた。
ひどくかき乱してやろうと思う。
「……失敗したらこの学園を去るレベルで動くけれど良い?」
「えげつない!? いや、周が一緒ならどこでも良いさ。不思議と周は十数年付き添った親友みたいに信用できるんだ」
どういうことだろうか。
昔、どこかで会ったことがあるのだろうか。こんな金持ちと知り合うような出来ごとはなかったはずだが。
小夜も会ったことがあると言ったが、それはどういうことだろうか。