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このあとは何回も下ろそうか悩んだが、どうにかこうにか都和の部屋に運び入れた。
腕には感覚がなく、小刻みに震えている。
明日は筋肉痛かもしれない。
「ありがとう」
ベッドに横になった都和が僕に感謝を口にする。
額には薄らと汗が滲んでいる。呼吸も脈も落ち着き、冷や汗ではないようだからひどくはなさそうだが。
「扇情的か?」
じっと観察しているとそんなことを言われた。口を動かしていないと死んでしまうのだろうか。動いていないと死んでしまうマグロでもあるまいし。
反射的に否定しても、からかわれると思った僕はことわざを利用して否定した。
「目病み女に風邪引き男なんて言葉がありまして、残念ながら扇情的ではなく僕の心をかき乱すことはないのです」
「ふっ、残念ながら目を病んでいる」
「ああいえばこういう……その目病みは潤んだ瞳のことを言うの」
都和は力なく笑う。僕もつられるように苦笑いを浮かべる。
そうだ、その瞳のことを聞かないと。
「ねえ、その瞳って」
「……」
「いや、寝た振りは良いから」
「ちっ」
舌打ちをまたも口で言う。苦手なのだろうか。
「ああ、この目綺麗だろう?」
おっと、隠そうともせず自慢するのは意外だった。
確かに綺麗な色だと思う。度々本を見ていると瞳の色を宝石に例えるが、なるほどこういったものか。透き通っている。光に反射して輝いているようにも見える。
「さすがに、じっと見つめられ続けると照れるんだが」
シニカルに笑われても本当に照れているのかわからない。
「何を隠しているの?」
「ベッドの下のエロ本」
一体いつの時代の思春期だ。
「ところで二段ベッドの下にエロ本を隠すのは兄弟的にどうなんだろうな」
「別に男性全員がベッドの下に隠しません」
「っ!?」
なぜそこまで驚く。
「周のベッドの下にはグラビア雑誌が置いてあったというのに!」
「あれは友人が僕を思って置いていったと見せかけて、捨てて行ったゴミ。あれでも妹に気付かれないように頑張って半分は捨てたんだから……って、なんで僕のベッド下の事情を知っているの!?」
部屋にいつ入ったのだろうか。そら恐ろしい話だ。
しかし、ええい話が一向に進まない。
のらりくらりとこのままかわされては仕方ない。
「その目はなんなの!」
僕は詰め寄る。