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押し倒すというよりは崩れてきたのが正しいのだが、僕の力では支えきれず横に倒れる。二人分の体重が加わり、結構な勢いではあったが不思議と衝撃はなかった。
「ちょっと、都和」
「ワ、ワルイ……」
小さな声で謝られた。
都和にしては意外な反応だ。
わざとな感じだったのに、こうも素直に謝られては裏を探ってしまう。
「今回は許すから僕の上から退いてくれない? 重いんだけど」
「女の子に言うセリフじゃないな……」
語気が弱い。
その上、呼吸が浅く速い。脈も指診してみると明らかに速い。
いきなり調子を崩したことに驚く。
僕が支えるように身体を起こすも、足に力はなく立ち上がるほどではないようであった。
顔色を覗きこんで僕は気付く。
都和の目の色が普段と違うことに。
右が赤く、左が青い。
オッドアイ。
これは能力の副作用なのだろうか。
さっきの倒れた際の衝撃がなかったことと関係しているのか。
「よくあるから気にしないでくれ」
といってもぐったりしている都和は見捨てられない。
フローリングの床と言っても、脱衣所のため湿度は高いのでここで休むのは推奨できない。
「肩を貸そうか?」
「そこはお姫様だっこじゃないのか……」
「僕にそんな力があると思う? 身の丈にあった手助け方だよ」
「そうだな、じゃあ貸してもらおうか」
しかし、介助で立ち上がってもらってもふらつきはあまりにひどく壁にもたれかかってしまいあまり動けない。
「誰か呼ぶ?」
「いらない」
なぜ強がる。
「仕方ない……」
「なにする気?」
「お姫様だっこ」
「出来るのかよ!」
体型は良い方ではないが、これでも鍛えていた。そう、中学校は無駄に弱小の運動系の部活よりは動いていたのだ。高校に入ってからは文系と遜色ない量になってしまったが。
一度試してみた。
「重くないか?」
心配そうな都和。
「結構つらい」
正直な僕。
だが、動けるのは動けそうだ。
「……ダイエットするよ。まず、一日四食にする」
「間食する気?」
「夜食さ」
「太るって」
「運動もするよ。折角、周がいるから夜にでも」
「言い方がいやらしいって」
軽口を叩けるのなら歩いて欲しいものだが。