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「はべらかしているのか?」
都和が帰ってきた。だが、小夜は膝の上から降りない。勿論、はべらかしているわけではないのだが僕が何を言ってもこの状況ではひっくり返せないので黙っておいた。
「まあ、良いとして。明日も学校なんだからお風呂入ってゆっくりしようぜ?」
都和の誘いに僕は悩む。自惚れで済むなら良いが都和も風呂に入ってくるタイプなので僕は気を付けて返事した。
「もうちょっとゆっくりしてから入るよ」
ゆっくりしたいのは本当だ。お腹がさっきより少し楽になったとは言え、まだつらいのだ。
「じゃあ、先に話をするか?」
「……誰に何のさ? 主語がないからわからないよ」
「周がみていない最後の同居人。深山千華にだ」
遅れてくると言っていたのにこちらから行くのは正しいのだろうか。よくわからない。
「んー、千華先輩に会うのはどうなんすかね」
羽衣がなにやら不穏な言葉を話す。会うことに対して不安に思うってどんな方なんだろう。
「どんな人なの?」
「一言で言うなら、気分屋っすね」
会いたくなくなった。
「……根は良い人ですよ」
羽衣の情報に付け加えるように小夜が言う。焼け石に水みたいな情報だが、ないよりましだ。
どんな人か少し心配だが、軽いとはいえ膝に小夜がずっと乗っていてもさすがに困るので僕は立ちあがった。少しだけ小夜は不満そうな声を出すものの、聞きわけは良く僕から離れてくれた。
「さて、行かないでおくか」
「わかった。じゃあ、用意し……っておい!」
良いつっこみだった。
「嘘だよ。お部屋に行ってみようか。少しの間だけでもここにいるんだから皆の顔を覚えないとね」
そんな殊勝なことを心がけているつもりはないけれど都和に聞きたいことがあるのでそういうことにしておく。
一旦ここで羽衣と小夜に別れを告げ、僕たちは廊下へ出た。