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違うとは言えず僕は口をつぐむ。
「何をしているんですか?」
そんな高度(?)なやりとりを楔に見られる。
自分の部屋に戻っていたことに関しては咎めず、距離がある仲を装う。
「道を聞いているところでした」
わかるなら人生の道を教えて欲しいものだ。
僕はこの道をまっすぐ行っても良いものだろうか。恐らく白腺からははみ出ているけど。
小夜はというとなぜか僕の後ろに隠れてしまう。
「あら、小夜さんが懐いているのですね」
懐いているというべきか懐かれたというか。
気分は野良猫に異様に懐かれたようなものだ。
「お待たせして申し訳ございません。それでは都和さんの部屋へお連れします」
軽くお辞儀してから僕の後ろの扉を促す。小夜が動こうとしないので僕は握手し続けている手を取り、玄関へ戻り、そのまま足を止めずに二階への階段を登った。
階段は幅があり三人が横に並んだとしても余裕で通れる。それに昔の洋画にある子どもが滑り台で滑れるかのようなタイプの手すりで感心する。尤も、滑れる年はとうに過ぎたし、滑るにしては危険が高い。高度というより下にある調度品の高価的な意味で。
「もう三十分程経ちますと夕食になります」
「いつも七時にご飯なの?」
「そうですね。特に私に用事がなければその時間にお出ししています」
「えっと、楔が作るの?」
意外だ。
中学校三年間で家事については一度も話をしたことがなかったのでてっきり料理が出来ないと思っていた。勿論、性格的にも疑っていなかった。
「腕によりをかけましたので楽しみにしていてください」
楔は柔和に笑う。真意はわからないが僕の浅い考えを読み取られた気もする。
「楽しみにします」
僕は本音でその笑みに立ち向かった。
目的地に到着。
二階に上がって右奥の部屋。
プレートには天霧都和とマジックで書かれている。
「それでは食事の準備がありますので失礼します」
ぺこりと頭を下げて楔はいなくなり、あとには僕と小夜が残る。
手は離してくれない。
「楔が苦手なの?」