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やはりアンタッチャブルらしい。
仮に今、どこかに戦闘にいっても役には立たないだろう。
「自分に関しては結構上手くいくようになったけどさ。それ以外はまだ怖いんだよなあ」
「はあ……僕が戻してあげるけれども無茶はしないでよ」
そういうと、なぜか抱きつかれた。
「おおおぉおお!」
喜んでいるらしく、ぐるりと抱えられたまま一回転された。
まるで子供と遊ぶみたいな抱え方で複雑な気持ちになる。
お返しとして僕も抱えてその場で一回転。
「あはははは!」
都和には効果がないみたいだった。
喜ばれたのでむしろ僕のダメージの方がでかい。
しなければ良かった。
赤くなった顔をこっそりと治すために天想代力を使用。無論目元は隠す。
「それでなにさ? いきなり笑うと怖いって」
「周と最初にあったときに言われたなあって」
言った思い出はないが、言ったのかもしれない。
「周が言った一番のクリティカルなセリフが今も我が心を揺さぶるとは……」
演技みたいに胸を押さえながらそんなことを言われてしまった。
「告白……みたい」
素直な感想を思わず口にすると挙げ足は容易に取られた。
「いや、あれは告白だったね。告白。責任とってくれるよな?」
ぐいっと詰め寄られた。
ほぼゼロ距離。
吐息もだが、心臓の音も聞こえてしまうのではないのだろうか。
「えっと……」
試練はいつも過去からやって来る。
僕の場合は知らない過去から来過ぎである。
「にゃっ!?」
あまりに距離が近すぎて後ろずさんだら転んでしまった。
「おいおい、大丈夫か」
手を差し伸べられた。
この手に何の他意もないと信じたい。
手を取りつつ立ち上がる。
「と、とりあえず帰ろう?」
話を逸らすべく僕は強引に寮へ足を進めた。
意味深に都和が笑ったのを見たが気にしないことにした。
「ただいま」
玄関の鍵は閉まっていたので誰もいないと思うが一応言っておく。
「おかえり」
「都和もただいまでいいでしょうが」
「んんー!」
「それもそうだが、周が馴染んでいくことに嬉しくてな」
恥ずかしい答えだが、どこか遠くでくぐもった声が聞こえた。
「んじゃあ、部屋でしっぽりするか」
都和には聞こえなかったのか?
「しません……はあ、トイレしてから行くから鞄持って行ってくれる?」
「あー? まあ良いけども」
一旦、僕はトイレ方面に歩き物陰に隠れ、都和が二階にいって見えなくなったのを確認してから声のする方に歩く。
耳を澄ませるとどうも脱衣所からのようだ。
「ここの住人ではなさそうだが……」
戦闘になるかもしれないと警戒しつつ中に入る。
すると声の主は脱衣場に寝かされていた。
黒伽だった。
「黒伽……?」
「んー!」
一番気になるのは特に何も縛られていないのにも関わらず、その場から動けないこと。それに目や口に何も付けられていないのにも関わらず開かないことだ。
下着姿も大分気になるけれども。
「……とりあえず」
バスタオルで肢体を隠してあげつつ、抱き起こす。
「黒伽。どうしたの?」
「んー!」
右手が動いた。
「おっと」
暴力的に動いたそれを僕は難なく受ける。右手は動くらしい。
ぐーっと力が入っているが、僕が握っていると観念したのか力が抜けていった。
「えっと……攻撃しないでよ?」
祈りつつ手を離してあげると、今度は右手が自身の顔を触っていた。
乱暴に触ったかと思うと、ようやく開いた瞳が僕を睨みつけていた。
「くぅああ……ぁぇええ!?」
あたふたしていた。
「周じゃねーか!! ははは、久しぶり!」
黒伽ではないっぽい。
目の色も違う。
ということは。
「模倣性の概念?」
「え、俺っち? そうだけど。やだなあ。もう、今は黒伽ですやん」
馴れ馴れしかった。
警戒レベルがぐーっと下がっていく。
「この子と戦うのか……」
僕の悩みをよそに僕に身を任しながら、黒伽は手で自分の身体を触っていく。
どうもそれが解除するための動作らしい。
「ちょっと、周も見てるだけじゃなくて触ってくれよ。ほぼ全身かかっちまったから中々やっかいなんだってば」




