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楔の手を取り、教室の外へ。
思わず手を取って外に連れ出した。その後、僕が手を離そうとすると逃げ出さないようにするためにか僕の手首を掴んできた。
「えっと……」
楔は何も言わない。気分はドナドナ中の牛。まだまだ、転校生という物珍しさもあって廊下にいる女子生徒の視線を集めているのに楔は意に介さない。
あまりにも気まずいので適当に話を切り出してみることにした。
「そういえばだけど。デジャビュって知ってるよね? 一度もしたことがないのにどこかで経験したことがあるように感じるって言葉でよく既視感とも言うんだけどこれの逆の意味の言葉って知ってる?」
「……」
返事どころか、こちらを見ようともしなかった。
正解はジャメヴュだなんてで言うのはなんだか恥ずかしくなってしまい僕も黙ってしまう。負のスパイラルだなあと自己嫌悪。
ようやく足が止まった先は空き教室なんかではなくて人気のない体育館だった。
おお、神よ。なぜどこのクラスも午後に体育がないんですか。
「ここで良いですかね」
楔が口を開き、小さくにこりと笑う。
一発殴られることを覚悟していたが。
「忘れますよね?」
予想外のセリフだった。
「え?」
わからず聞き返す。
「朝、私と周は出会っていませんよね?」
僕の肩を掴み乱暴に揺さぶる。
楔にしてはひどい混乱っぷりで僕も危うくつられて混乱するところだった。
「僕としてはいきなりキスしちゃったから謝りたいんだけど……」
「何もしてないし、何もなかった。それで良いですね?」
「……えっと、楔さん?」
頬は少しだけ赤かった。
まさか初めてのキスだったのだろうか。
それでこんなにも恥ずかしかったのだろうか。
意外だと思いつつも僕は縦に首を振っておいた。
「……馬鹿っ!」
「いたっ!?」
さすがに肩を叩かれる意味はわからなかった。