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「こうやって」
そういって、手を広げ。
「こうとか」
宙を抱きしめた。
別にハグで済めば閉店セール以上に身体を安売りするけれどもエスカレートは否定出来ない。
「んむー」
名残惜しそうに空の腕を広げながら、項垂れる。
「不満です? いくらでも条件は譲歩しますし、別に手伝いに不満があれば報酬はなくても構わないですよ?」
「いや、なんか……気が済まないというか。行き先がその下世話であるし……その、なんか」
上の立場からでなく、下の立場から要求されると困ることに初めて気付く。
それに小夜の望みは健全といえないので容易に条件を組むと首を真綿で締め付けられる羽目になる。
「僕の気が済まないから要求内容を変更してもらえるかな。例えば、お嫁さんにしてと……か」
口が滑った気がした。
「はい!」
滑ったところではない。転がり落ちて行った。
「いや、あ、あのさ……」
弱い衣は笑顔でかき消された。
「周さんの一番になれるのなら願ったり叶ったりです!」
無垢な笑顔フルパワー……100%中の100%みたいな。
「さっきのは冗談だよ」
なんて言えずに口ごもり、小さく曖昧な笑みを浮かべた。きっとその苦い笑みはカカオ100%だ。
ここでふと思い至る。
小夜はどうにかしてでも僕の近くにいたかったのではないかと。
例え、愛人といった爛れた仲となっても。
「えへへ」
末恐ろしい。
僕も大概だが、恋愛観が歪んでいる。
僕もだからこそ何も言わないけれど。言えないけれど。
ちょろいのかヤンデレなのかは置いておいて。
「とりあえず、何かあったら手伝って頂くね」
そういって、僕は右手を差し伸べた。
それに瞬時に反応し、僕の手を両手で握りぶんぶん振るように嬉しそうにする。やはり年上には見えない。精神的には親子の気分だ。
「先払いでも……でも!」
友好の握手はいとも簡単に曲解された。