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「いんや。来てただけ」
来てただけって言うのも怖い。一応、携帯電話を確認して見たが何も連絡は入っていなかった。
「天霧との関係ってなによ?」
雫は菓子パンを齧りながら尋ねてきた。小さな弁当の他に菓子パンを食べているのなら僕よりカロリーを摂取していそうだ。
「何って、友達だよ」
「そりゃ、友達なのはわかるけどさあ」
「天霧に連れられて来たみたいだから気になってるのよね。親しくなったところだし詳しく聞かせてよね?」
そうは言われても、複雑な事情を伝えることは出来ない。
雫は子犬のように目を輝かせながら僕の言葉を待っていた。好奇心とはなんとも厄介だと思いつつも僕は僕は軽く嘘で返してしまう。
「実は僕の両親は再婚してるんだ。それで、ちょっと僕は新しいお義母さんと折り合いが悪かったから小夜の紹介でここに来たの。都和は小さな頃以来でここに来てたまたま会って意気投合したの。それで小夜と違って同級生だから色々と面倒を見てもらっているだけだよ」
本当のことも織り交ぜて話すと、雫は複雑な表情をしつつ僕に菓子パンを向けてきた。
「苦労してるんだな。一口だけなら食べていいぞ?」
一口だけなのか。
「……気持ちだけ頂いておきます」
断っておいた。間接キスになるし、甘いパンは弁当に合わないし。
「苦労しているわけね。学園のことならわかるから相談してよね?」
「ありがとう、美冬」
「ところで美冬殿。某、次の授業の英訳が当てられておりまする……!」
「雫は自分でしなさいよね……」
「差別はんたーっい!」
「ははははは」
そんな二人と歓談してお弁当を食べ終わり、次の授業の準備をしていると。
「少し時間ありますよね?」
「く、楔さん?」
楔が僕のところに来た。
別におかしいことはない。一緒の寮に住む人が尋ねてきたように他の人には映るだろう。
ただ、楔は頬笑みを浮かべていないし、眼鏡もしていない。
真剣な表情と言うよりかはまるで怒っている様に思えた。
「……当然かな」
聞かれないような声で呟く。
楔のあまりの剣幕に雫と美冬は止まっていた。
楔の名誉のためにも僕から楔を連れて行かないといけないみたいだ。
「行ってきます」
僕は二人に軽く手を振る。
二人ともさっきと違って手の動きがぎこちなかった。