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僕が慌てていると伽羅が助けてくれた。
「……意地悪」
「ふふふ、周君。ごめんね」
あまり咲哉義母さんは冗談を言わないのに珍しいと思う。いや、恐らく冗談ではないのかもしれない。
昔の僕はおそらくダメ人間だ。
キス魔的な意味で。
とりあえず、僕は膝に乗った小夜の手を軽く払ってから曖昧に笑っておいた。
「それで今日は周君はどうしたの?」
「ちょっと問題があって」
「何の問題かしら? 周君が女の子になったこと? でもそれは解決済みよね?」
「……咲哉義母さん?」
「ああ、安心して。私が黒幕ではないから……うん、ちゃんとこういうことがあるって聞いてるからわかるの」
どういうことだろうか。
僕が問いを考えていると伽羅に遮られた。
「周にぃ、あとで話すから」
「え、うん」
ところで本当に伽羅なのだろうか。
腹違いの妹ではある。それは確信出来ているのだが。僕の天想代力であった伽羅ではない気がする。
うーむ、中々と複雑だ。
その後は食事が終わるまでは会話らしい会話はなかった。けれども、悪い雰囲気ではなくいつもの食事風景のように思えた。
「ふぅ」
食後、一服していると何も言わずに伽羅は僕の髪を梳いてきた。
あまりにも自然だったので小夜が僕に奇異な視線を送るまでは気付かなかった。
どうやら敵地と思ったけれども自宅なのでリラックスしてしまっていたようだ。
「あのね小夜、僕は髪を短くしたかったけど伽羅がこのままが良いって言うから……」
「何の言い訳ですか。もう」
小夜は少し怒っているようにも見える。
勝手に髪を触らせているからだろうか。
これ以上口にすると言い訳が過ぎるので諦めて、僕はタイミングを見計らって伽羅に本題を投げる。
「……伽羅、話があるんだけど」
「はい、私のお部屋でしましょう」
軽い返事で僕はとんだ肩すかしを受ける。
黒幕だよね。黒幕じゃないとさすがにお手上げなんだけど。
伽羅は先に行くと言うと二階に駆け上がってしまった。
二階に行く前に僕はふと考える。小夜は連れていくべきだろうか。
奇襲しようと失敗して流されているが、伽羅に気付かれずに近くにいてもらえれば戦闘になれば助かるが。
僕は小夜を見る。
咲哉義母さんに後ろから抱きしめられていた。
「おっと……小夜ちゃんはこっちで私とお話しよっか」
「ひにゃ、周さん助けて!?」
戦力になりそうになかった。
僕は潔く諦めて小夜に軽く手を振る。
「やあ、周さん!」
「ちゃんと戻ってくるよ」
二階へと上がった。
「えっと……」
そして僕は目にする。
伽羅の部屋の扉に貼られた紙を。
『一回ノックで敵からのお話。二回ノックで味方からのお話』