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僕は何も言えず、そのまま小夜を抱えたまま立ち上がり距離を少しとる。
「ひにゃ?」
僕の布団を指差す小夜。
寝ません。
「あのね……ここは敵地なんだよ?」
「自宅を敵地というのはひどい形容ですね」
僕も思うが伽羅が何を企んでいるのかわからないので慎重にいって損はない。
「むー!」
「全て終わったらちょっとだけ構ってあげるから」
「全て終わったら私の部屋で寝泊まりして下さいよ?」
「ちょ……」
都和も危険だが小夜も危険なんだけども。
僕が否定の言葉を紡ごうとしたところで伽羅が呼びに来た。
「周にぃ、朝ごはん」
笑顔で手招きしていた。
「小夜ねぇも行くよ?」
「ひにゃ!?」
強引に僕らの手を取る。
少し懐かしみを覚える一方で小夜の名前がわかっていることに頭を悩ませるのだった。
ろくな会話がなく、そのまま伽羅を真ん中にしてリビングへ。
「……おはよう」
咲哉義母さんが出迎えてくれた。
「あら、周君……その格好、とても似合ってるね」
「……ぐっ」
着替え忘れたのは言うまでもない。
地味にダメージを受ける僕。汚名返上は出来そうにもないので諦める。過去にも演劇の場面で女装は見られているので心の整理は早めにつけられた。
一方、小夜の方はというと他人を受け付けないモードに入った。
「……さくやっ!?」
と思いきや義母さんを見て驚いていた。
「えっと、義母さんと知り合いだった?」
「遠縁よ」
小さく笑いながら人差し指で小夜の唇に指を当てるのだった。
小夜は何か言いたげだったが飲み込んだようだった。
促されて座ったテーブルの上には程良くコゲ目の付いたトースト、ジャムやチーズやマヨネーズ、チョコレートソースやヨーグルトが置かれてあった。
楔やちいろが用意してくれた食事と比べると物足りなく感じる僕がどこかに居て、学園に毒されているなあと思うのだった。
「いただきます」
手を合わせて食事開始。本当は朝食前に帰るつもりだったので今頃寮では混乱しているかもしれない。楔には伝えたつもりだが、あのあと起きられただろうか。
ふと咲哉義母さんと目があった。
「な、なに?」
咲哉義母さんが小首を傾げながら僕に問う。動きでショートボブの髪が揺れた。伽羅の髪が白紫なのは咲哉義母さんの遺伝なのだろうか、なんて頭の片隅に浮かんだけども。
「結局は何人の子と結婚するの?」
消えてしまった。
牛乳を口に含んでいたら僕は勢いよく吐いていたかもしれない。
「な、なんのこと……っ?」
右横にいた小夜が僕の膝に手を置く。
アピールしているのはわかるけれども。少し待って欲しい。