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いくら僕が戦闘の速さに慣れようとしても、あちらの方が速い。
手に集中すれば足が飛び、足に集中すれば手が飛び。
そして、二つを見ていれば撃たれる。
「ふー……」
息を吐く。
だが忙しなく手を動かし相手の攻撃を捌かないといけない。
さすがに天想代力を省エネ運用。痛み、損傷のみ治し運動は限界速度で稼働。体力が尽きる前に体力を再現する。
「じれったい……!」
埒もあかないので僕は受身から一転攻勢へと持ちこむ。
僕は干渉に向けてナイフを振る。
まるで正拳突きのような一撃は左にかわされた。
勿論、通用しないのはわかっている。
だからこの一撃をとことん当たるまで再現していく。
「なっ!?」
避けた先に僕は体重を乗せた今の一撃を再現する。
避けられても間隙なく再現する。
これを五回繰り返したところでようやく当てられた。左肩を抉るように。
その換わりに三発程射られてしまった。
痛みはやはりないがこれだけ撃たれてようやく異変に気付いた。
身体の自由が利かない。
僕は膝から崩れ落ちる。
またダメだったようだ。
ゆっくりと近づく足音が聞こえた。
僕は疲労に身体を委ねていると玖乃に抱え起こされた。
「おつかれさん」
玖乃に見えない矢を抜かれるとゆっくりと感覚が戻ってきた。
「どういうこと……?」
「時間切れだ。ほら、完全に干渉が楔の身体を乗っ取っていないんだから稼働時間に限りがあるんだ」
そういいつつ僕の身体をまさぐる玖乃。手つきがえろいけれどもなんだかんだで越えてはいけないラインを越えないので僕は身体に力が戻るまでは無視した。
「……って待った。触るのやめて」
ちょっと気持ち良くなってきてしまった。
こいつやっぱり女の子好きか。
「身体も治してあげてるんだからもう少し楽しませてくれよ」
最悪だった。
目覚めた楔が思い切り玖乃を殴るまで続くのだった。