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玖乃に対して僕は罵詈雑言を心の中で浮かべる。
さて、ピンチだ。
「そのまま行けば見逃してあげましたが、つまづいてしまったのならば仕方ありません。宿主様のために軽く止めてみて差し上げましょう」
そういって干渉の左手に緩やかな光が集まって形作られる。
それは片手に収まる程の小型のクロスボウだ。
銀色を基調としたそれは小型なこともあり玩具のようにも見える。
だが、僕に向けられたそれは引き金を引くことにより見えない矢が放たれた。
「くっ!?」
当たった感触はしたが、痛みはまるでない。
変わったこともないと言える。
「何をしたの……?」
思わず聞いてしまった。
「さあ、なんでしょうか?」
柔らかな笑みを浮かべ、干渉は続ける。
「今なら優しくしてあげます。なあに、痛いなんてことはしませんよ」
ゆっくりと腕を広げる。
降参するのならば胸に収まれと言っているかのように語っている。
ここは嘘でも頷いて小夜や玖乃を待てば良いのに、僕は構えてしまった。
「……ありがとう」
干渉はそれを見て、笑みを崩した。
ただ嬉しそうではあった。
サドだ。
基本的に天想代力の性格はえぐいから何とも言えない。
「行きますよ」
高速で移動し、殴ろうとする干渉に対し、僕はすぐに千華のナイフを再現する。
リーチは短いが、あたれば天想代力が削げるのでかなり汎用性が高い。
そのリーチも投擲することにより問題はなくなる。
僕はナイフを再現し空間から目標に投射しながら、移動を行う。
さらに同時に再現性を用いた擬似瞬間移動を行い相手の攻撃を回避する。
「あはっ!」
中々捉えきれない相手だが、守備を重点的に行うことにより確実にだが疲弊はさせられている。
恐らく回避率に関与しているとはいえ当たらないわけではない。
幸いながら天想代は豊富にあるので僕は冷静にダメージを与え、左手のクロスボウに注意を向けていた。
しかし、上手く行き過ぎている気がする。
干渉の攻撃は先程から単調だ。
僕に向かって高速移動し、殴りかかるだけ。距離が空けば時折クロスボウが動くが当たってはいない。
直線的だ。
別に場所を誘導されているわけではなさそうだがぶ……。
「不気味ですか?」
「くっ!?」
思考を先読みされた。
瞬間移動したすぐあとの場所に拳が届く。
衝撃。
身体を逸らして軽減し、痛みが頭に届く前に再現性で治す。
「あらあら、そんなに天想代力を使っていて大丈夫なんですか?」
「天想代力が切れるのを待っているつもり? それより先に干渉の方がなくなりそうだけど」