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玖乃は手を広げるようにする。
名残惜しそうに小夜は僕から離れると手慣れたように玖乃と手を繋いだので僕も空いている反対の手を掴む。
小さく何度か頷く玖乃。
それは了解の合図なのだろう。
そしてグー、パーと僕の手を握り目を瞑った。
咄嗟に僕も手に力が入る。
「……両手に花だなあ」
しかし、省略は起きることがなく感極まっているだけだった。
「早くしてくれますか?」
小夜が言う。
それを合図に足元が火花を散らしたように光った気がした。
「……っ!?」
次の瞬間には浮遊感を受け、次に足に地面の感触。崩れ倒れそうになるのをなんとかバランスを取ってすぐに周りを見渡す。
見慣れた景色が続いている。
「まさか……」
僕だけ置いて行かれるとは思わなかった。
三人が余裕とはなんだったのだろうか。
小さくため息を吐き、玖乃に連絡をしようと携帯電話をポケットから取り出す。丁度そのとき携帯電話は、小さく震えだした。
タイミングが良い。
玖乃からの着信を取ろうとして。
僕は、携帯電話を落とした。
「今なら優しくしてあげますよ」
後ろから抱きつかれた。
いつの間に。
厚めの洋服の生地だから見なくてもすぐに主はわかった。
だが楔ではなさそうだ。
「干渉……」
「おや、有名でしたかね」
前に回ってくる干渉を見ながら僕は考える。
干渉の概念。前回は敗北に終わった相手である。
だが敗北で学んでいることもある。
天想代力は複数に向けることは出来ないということだ。
これは僕もだが、現在系で使用している間に他のものに対象を移すことが難しいためだ。
それは右手と左手を同時に操るのと似ている。複雑な動きを二つに持っていけない。
だからこそ、能力を流動的に使う必要がある。
「帰るの?」
先に口を開けたのは干渉だった。
笑みを浮かべているのにも関わらず僕は一切それに安心感を抱けなかった。
勿論目の中も笑っている。
これだけ相手は自然体なのに。僕は緊張で身体を硬くしていた。
「……」
「沈黙は肯定ですよ」
「干渉が僕を置き去りにしたの?」
「まさか。玖乃を相手にそこまで干渉出来ませんよ。ただ、単純に周は天想代力を持ち過ぎていて省略に対して抵抗してしまっただけです」