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とはいえ、ここは部屋なんかではなく玄関口である。
さらに言うと食堂に行くときは必ずここを通ることになる。
見られるとまずいので僕は離れようとする。
「小夜、離れるよ?」
「もうちょっと……」
別に強く抱きしめられていないので逃げられるには逃げられるがそうはしなかった。
それは一種の罪悪感なのだろうか。
結局僕は強く言えず五分間ほどこうしていた。
そんなところを玖乃に見られる。
「い……いつからいたの?」
「あ、続けててくれ。今、携帯で写真撮るから」
「やめなさい」
「あ、あとで僕にくれるなら不問にします!」
「小夜……」
何も言うまい。
写真は一枚撮られてしまったが、そこまでいちゃついている写真ではないので諦めてとりあえず聞くことにする。
「なんでいるの?」
「つれないな。一回家に帰るんじゃないのか?」
「え、まあそうだけど」
伽羅に会うために約束をしていたことを思い出す。まさか玖乃から来るなんて。
「今日の午後は割と予定が入っているから午前中なら良いんだがどうする?」
僕は覚悟を決めて頷く。
伽羅には会っておかないと。
立ち上がり僕は玖乃が伸ばした手を掴もうとして、それを小夜に遮られた。
「なに、勝手なことをしようとしているんですか!」
吠えられた。
説明不足なのは否めないけれども。
「ここには戻ってくるから」
「当たり前です! 逃がしてたまるもんですか!」
当たり前って、もう僕の用事はほぼ終わりに近いんだけれども。
むしろここにいる理由なんてほぼ消失していないか。
都和の人格問題はほぼ解決(自力で解決された)。
僕の性別問題も解決(自力で解決した)。
あ、あれ、僕が学園に通うメリットって……。
「ちょっと周さん?」
「帰っても良いよね?」
「しゃーっ!」
「たまには来るよ」
「うぇええっ!?」
「ははは、周は鬼だな」
まあさすがに都和に何も言わずに出て行くのはまずいか。
むしろ何か言ったら帰られそうにない気もするけれども。
「むー、僕も行くもん……」
いじけつつも僕の腕に全力で抱きついてくる小夜。
可愛いけれども。
ちらりと玖乃を見ると親指を立てていた。
良いものを見せたつもりはない。
「……ねえ玖乃。そのさ、省略で三人一気に行けるもんなの?」
「ん、余裕!」
余裕らしい。
僕の暗に察せというオーラには一切気付かないらしい。
というわけで急遽三人で行く羽目になった。