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この声は伽羅の声か。
身構える僕。
しかし、肩すかしをくらう。
「あ、周。人格は変わってないから」
器用なことをされてしまった。
「どういうこと?」
「どうも、私の天想代力は反転だけじゃないみたい」
ハテナマークな僕。
都和は説明し終わったと言わんばかりに僕の胸に手を置く。
「慎ましい胸」
「いや、僕は男だから」
例え今、女でも傷つく要素はまるでゼロだ。
それよりもゆっくりと揉まれている方が問題だ。
「あの、都和さん……?」
「楽しい」
楽しいのか。僕はまるで楽しくないけれど。
「こっちも……揉む?」
「いや、あの……」
「攻められたい?」
都和はどこまでえろいことを知っているのだろうか。
少しだけ不安に思いながら僕は心臓が痛いほど動いている中、胸に手を這わす。
小夜とはまるで違い、手から零れるほどの量があった。
柔らかく、生温かい。
都和は少しだけ身体を震わせる。
恥ずかしいのだろう。
攻め始めた僕も恥ずかしい。
顔から火が出る勢いで。
結局、この日の僕らは胸を触るだけで終わった。
僕は緊張のあまり過呼吸で都和の上に倒れたし、都和は興奮し過ぎて鼻血を出してしまったためである。
替わりに僕らは抱きあって眠った。
眠ったというより気を失ったようにだったけれど。
朝、起きてすぐに僕は都和から抜け出し(惜しい気もした)、お風呂に入って(気分を落ち着かせるために)玄関ホールのソファーでゆっくりとしていたところで千華と遭遇した。
「昨夜はお楽しみでしたでしょうか?」
嫌味を言われた。
おっとりとした雰囲気から言われると、何か逆らえない気分となってしまう。
優位性を取られた気分だ。
とりあえず、誤魔化しておく。
「あのですね。都和とはなんでもないですよ」
「かなり心酔されている様子でしたが」
心酔。そんなレベルに見られていたのか。
「二人は恋人ですか?」
「あのですね。女の子同士ですよ? そんなことはありません」
本当は男だがそんなことを言っておいた。
「では、二人の関係は?」
「友達ですよ。それ以上でも以下でもないです」
「その、身体だけの関係でしょうか?」
曲解されていた。
「女学園なため色々な生徒がいますし、女子寮ですので配慮致しますが……」
もはや決めつけのようだ。
そんなところに、まるでいやがらせのように小夜が現れる。
どこから聞いていたのだろうか。
折角お風呂に入ったというのに、背中から嫌な汗が流れた。
「……おはようございます」
テンションが低いとかではなく、こちらの様子をうかがっているように見える。
返答次第で僕は詰む気がする。