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「んー……まあ良いだろう」
また距離を詰めてきた。
「都和?」
「駄目だな。抑え切れられない」
ぎゅーっと抱き締められる。
天想代力を集めているのだろうか。
顔を見ると幸せそうな表情を浮かべている。
「……」
危うく僕は唇を奪いかけたところでノックが聞こえた。
はて、と首を傾げつつ僕は都和からはなれ……られなかった。
「えっと?」
「ああ、一緒に行くか」
まさかの離れられない宣言。
僕も暴走してキスをしまくってたので多くは言えず、背中に受ける感触をひたすら気のせいにしつつ扉を開ける。
開けた先にいたのは千華だった。
もう約束していた時間になってしまったのだろうか。
「周様? そろそろお時間ですがよろ……」
千華の顔色が徐々に赤くなる。
待て、そうじゃない。
「別に人の恋愛に口出しは致しませんが、あまり人前では……」
ひどい勘違いをされた。
というか同性愛を容認してしまうのか。
弁明しようにも都和が僕の背中から剥がれないので焼け石に水だ。
まあ、それでもないよりはましか。
「今はそういう罰ゲームで……」
「ああ、そういうことだからまたあとでな」
都和は器用にドアを閉める。
千華が目の前から消えた。
いやいやいや。
「ちょっと都和、いくらなんでも……」
「周が他の女性と話すのは面白くない」
うっ……厄介なことになった。
恐らく、全ての記憶は戻っていないにしても都和はこれで反転性の概念を扱える。
とてつもなく扱いにくく、とても凶悪な能力を手にした。
「そういえば周は再現性の弱点を知ってるか? 天想代力のあるものにこう密着されていると自身の状態しか変えられないことを。逃げられないだろう?」
確かに抵抗されるからあまり出来なさそうだけど。
ま、まさかのボス展開になってきたとは。
小夜は恥ずかしさで行動を自制出来るが、都和は天想代力がよみがえったこともあり今は自制出来なさそうだ。だが、都和は男の人を知らないので。
「朝まで離さないからな」
とてつもない生殺しに合いそうだと思った。
とりあえず距離をおけば再現性が使えるはずなので僕は離れられる術を選ばないことにした。
「千華、助けてー!」