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「んー、寝れないときは周に子守唄でも歌ってもらうさ。ロックで」
「ロックなの……? 歌える気がしないよ」
「ヘビメタ?」
「どうあっても激しいのが所望かい。僕の喉を壊す気?」
「まあ、それはそうと」
唐突に話を切られた。
何をするかと思えば、ぐいっと僕の近くに寄ってくる。
一瞬だけ僕は唇に行きかけたがなんとか、一歩引くことで難を逃れる。
「なに、怖いんだけど」
「目の色」
僕の方を指差し、都和が言う。
どうも僕も臨戦態勢に入っているらしい。
にたりと笑われた。
都和がおかしい。
ふと、頭の中で部屋の間取りを浮かべる。
三歩後ろに歩けばドアだが、一歩進めば都和にぶつかる。
再現性を使えば勿論部屋の外に出られるが、都和に掴まれていると困難さを増す。
そう考えていると都和は僕の左手を乱暴に掴み、引き寄せた。
咄嗟にこらえようと足がこらえたところを足払いされてしまい、僕はベッドに倒される。
「あんまり変なことをされても困るんだけど」
抗議の声は届かず、都和が僕にのしかかってくる。
グイッと抱きしめられると、小夜にはない発達した柔らかさが僕の背中に伝わりかなり気恥ずかしくなる。
そして、僕が身体をよじって抵抗していると。
「天想代力の使い方を思い出した」
不吉なことを口走るのだった。
なぜ今日なのか。なぜ今なのか。どうして戻ったのか。疑問は尽きないが。
「だからって、僕を押し倒す理由はないでしょうが!」
「いや、ある」
強い口調だった。
そういって、僕の脇腹を触ってくる。
「んひゃあ!?」
変な声が出てしまった。
「そんな声を出すなよ。ムラっとするぞ」
「じゃあ、へんなとこ触らないでよ!」
「そもそも、周が私に呪いをかけなければ!」
かけているのか?
いや、わからないけれどもとりあえずは上着の中に入ってきた手を止めなければ僕は恥ずかしさで死ぬ。
「都和、まず話をしよう! 僕らには言語があるんだから、胸を触るのはやめて!!」