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「ちょいっと、矯正するぞ?」
ぐいっと抱きつかれると抵抗する暇もなく、肩の関節がこきりと音を立てた。
勿論、痛くはない。
次に首をひねられる。
中々軽快な音であり、視界が明るくなるのがわかる。
「ねえ、これって素人がしたら危ないんじゃ……」
「親父から叩きこまれてるから失敗しねーよ」
すごい自信だ。天想代力も関係しているのだろうか。
この間を見計らって小夜は服を着始めた。
僕と出るタイミングを合わすかのように。
「周はすごいな。普通はこんなことされると変に力が入るんだが、一切はいらねー」
「それは褒め言葉なの?」
「どうとでも受け取ればいいさ」
こうしてマッサージを含めたリラクゼーションは終了した。
「よし、終了ー」
「ありがとう。ちいろにはなにか奢らないといけないね」
「ふん、期待しておいても良いぜ?」
料理以外にも精通しているのも中々すごい話だ。将来は何になるつもりなんだろうか。
終了と言ったところでちいろが服を脱ぎ出した。それを小夜は見ると僕の視線を遮るように前に出て、脱衣所を出ようと僕の手を引っ張る。
廊下に出て小夜の最初の一声は。
「満足です」
だった。
僕は顔を合わせにくかったので顔を背ける。
その後は何も会話はなかったが、手を繋いだまま部屋まで歩いた。
「おやすみ小夜」
「一緒に寝ても良いのに……」
何も言わず、僕は部屋に戻った。
都和はソファーで寝ていた。
なぜベッドが近くなのに寝落ちしてしまったのだろうか。
「都和?」
僕は軽く揺さぶり起こす。
「……」
薄く開けられた目の色がオッドアイだった。
「あー、悪い……寝てたみたいだ」
しかし人格まで変わってはいない様子で一安心する。
「ん」
「もう……」
手を伸ばして来たので仕方なく、手を引っ張り上げて立つ介助をした。
「こんな時間に寝ると寝られなくなるよ?」