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しばし、沈黙。
「……」
洗面台に行き、冷水で顔を流す。
息が続くまで激しい水流に当たると多少の落ち着きは取り戻せた。
とりあえず、髪は乾かさずに身体をきっちりと拭き、服を着る。
制服に着替えた辺りで小夜が風呂から上がった。
「あぅ……」
勿論あっちは一糸纏わぬ姿である。
僕はあまり見ないようにして髪を乾かさずに逃げる羽目になった。
だが、僕は脱衣所から出たところで捕まった。
ちいろに。
かなり悪いタイミングである。
「あ、もうあがったのか?」
ぶっきらぼうに聞きながらも視線は明らかに生乾きの僕の髪を見ていた。
「おい。髪を乾かすぞ」
「……ちょっと脱衣所も暑くてさ。少し外に出て涼んでこようかなーって」
「そんなもんより髪の方が大事だ」
ばさりと僕の主張を切るとぐいっと髪を引っ張られる。
「あ、ちょっと……」
そして鼻元へ。
嗅がれている。
それもかなり。
前回は手痛い目にあっているので僕は思わず目を閉じる程緊張してしまった。
「ん、今回は大丈夫か」
その言葉に僕は安堵してしまう。
だが、甘かった。
「じゃあ乾かすぞ」
「へっ……? やっ!?」
そのまま僕の髪を持ち、脱衣所へ逆戻り。
抵抗しようにもしっかり持たれているので派手に動けなかったのが敗因でした。
「あ、周さん!」
バスタオルを巻いた姿で出迎えてくれる小夜。
今はまだ会いたくなかった。
「ただいま……」
何に対してかはわからないけれどとりあえず挨拶をしておいた。
鏡台前に座らせられ、ドライヤーの熱風が僕の髪を乾かしていく。
「周は磨けばかなりもてそうなんだからな」
男にだろうか。勿論ノーサンキューである。
「よし、乾いたぞ」
「ありがとう……」
そして流れるようにそのまま肩の方に手が伸びた。
「いや、してくれなくても良いよ? 疲れているでしょ?」
「助け合いだ。んじゃあ、軽くマッサージしていくぞ」
「私は手のマッサージしてあげますね?」
逃げることもできず囲まれた。
小夜はバスタオル姿のままで僕の手を指圧し、ちいろはちいろで僕の肩から腰にかけて指圧してきた。
結論を言うとかなり心地よかった。
知らず知らずに身体を酷使していたのか、身体が軽くなっていく感じは快感の一言だ。