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問題としているちいろは来ない。
来ないのならばそれはそれで良いのだが、悪い結果のテストを返される生徒のごとくドキドキしているので心臓に悪い。
一方、小夜は小夜で僕にべったりでまた違う意味で僕を悩ませる。
「んんぅ……」
「変な声を出さないでよ」
早く上がろうとしているのに僕は小夜の背中を洗っている。
髪の毛を洗ってほしいと言われて妥協でここになったわけだが、髪にしておけば良かったと思う。
手に伝わる温もりと柔らかさは僕をひどく悩ませた。
華奢で小さな背中なのに、僕の心中は穏やかではない。
勿論どうこうしたいというわけではない。単純に僕の経験値が低すぎるのだろう。鍛えたくもないが。
「お仕舞い……」
時間にして一分もしていないのに僕の顔が赤かったりする。
うん、湯気のせいにしたい。
「……や」
拒否られた。
すると小夜は僕に背を向けながら手を掴んだ。そして無理やり僕の手を脇腹に持って行かせる。
「ここも」
「ここは背中じゃないって」
「サービス……」
何の?
とは言わずに僕はゆっくりと手を動かす。
あまり触れまいと逃げようとする僕の手を離さないように、まるで感触を味わえと雄弁に語っている小夜の手の力に僕は負ける。
「……」
しばらく何も考えずにしていると手の力が弱まったので、僕は離す。
手に残る感触が生々しくて僕は茹る思いがした。
到底小夜と顔を合わせられる気がしなかったので湯船に逃げる。
小夜は小夜でやはり恥ずかしかったのか何も言わずに頭を洗いだした。
あとで冷静になって考えてみたが。
「……直接手で洗う必要なんてないじゃないか」
と気付くのだった。
後の祭りだ。
結局僕は身体を洗う気になれず、湯船から上がると髪と身体をさらりと流して脱衣所に逃げた。
小夜は僕に何か言いたそうに振り向いたが、何も言わなかった。
脱衣所の室温は涼しく僕の心を少しだけ落ちつかせた。
巻いていたタオルを外し、備え付けのバスタオルに包まる。