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自己嫌悪。
激しく。
再現性は使わずに深呼吸一つ。
心を落ち着かせながら身体を清める。
シャワーは熱く、頭から被ると冷水じゃないのに落ち着く感じがした。
「周さーん!」
声の振動をシャットアウト。
頭を洗うことに集中する。
そう、ちいろが来ないのなら即効で上がって非難すれば良いと思ったのだ。
人として最低だと言われてもあまり身体に触られたくない僕の冴えないやり方だ。
そんな時間との勝負をしていると後ろから小夜が抱きついてくる。
「邪魔」
「つれないです! 一緒に洗ったり洗ったり……洗ったり……!」
「洗わないって」
というか抱きつかれて気付く。
小夜ってば、タオル巻いてない。
発育が未熟だとはいえ、女の子としての柔らかさで気恥ずかしくなる僕。
少しだけ身体をよじらせ離れさせると。
「んー、もう」
ゴシゴシと僕の頭を洗いだす。
もうどうにでもなれ。
さすがに洗ってもらっている間に自分が手を動かすわけにもいかずに、ぼんやりと前を向く。
鏡に映る自分の姿と小夜の裸体。
自分はタオルを巻いているから良いが、僕の身体からはみ出ている小夜の部分が眩しい。
「……」
僕は手に残る泡を飛ばして鏡の世界を閉じた。
「どうしました?」
「なんでもないよ」
「そうですか? ところで周さん。かゆいところはないですか」
「ないよ」
「お嫁さんはいりませんか?」
強い子だと思う。
それでも小夜の好きの根源は僕の昔で、僕はその昔を知らないので中々と好き嫌いをはっきりと答えにくい。というか、今ここではいを選んだら色々と取り返しがつかなくなりそうだ。
「小夜が大人になったら答えてあげる」
「年上ですって!」
「まあ……いずれ答えてあげるよ。小夜、髪を流してくれる? ちょっと目に泡が入ってきて痛いかな」
熱いシャワーは僕の悩みを洗い落すことは出来ず、汚れと泡だけを持って行くのだった。
次にトリートメントをしようとしたところでシャンプーをかけられる。
うっ、だがちいろ対策には良いのかもしれない。対策と言っているあたり本当にトラウマだ。
「ところで、ちいろの天想代力ってなんなの?」
「えっとですね。詳しくは知りません。あまり表には出てきませんけれど、効果的にはお薬ですかね?」
お薬。
そういえばペッドボトルに睡眠薬なんか仕込まれてたっけ。
そう思うと薬関連なのだろうか。
「そんなこというと普通に僕たちはちいろの料理を経口摂取しているわけだけど」
「ははは、ある日反乱を起こされたら全滅ですね」
洒落にならない。
というかそんな危険と毎日隣り合わせだったのか。
「さっきも言いましたが本当に出てきません。稀に出てきても会話どころか動きもしなかったので無害だと思いますよ? 怒らせるとわかりませんが」
僕はちいろを怒らせないようにと心で誓った。