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それは嬉しいけれども。
「お風呂に入ってから食べます」
「ん、そうか」
都和の対応はさっぱりとしていた。一緒に入るなんて言われたらどうしようかとも思ったが安心した。
「あー、下着はそこのクローゼットの二段目の引きだしに入ってるぜい」
「僕のスパッツのことだよね?」
「うむ」
僕はクローゼットを開けて上から二段目の引き出しを確認する。
靴下が入っていた。
「あー、下からな」
「紛らわしい!」
と文句を言っていても仕方がないので僕は下から二番目の引き出しを開ける。
スパッツは確かに入っている。
都和の下着と共に。
「……」
半分半分で分けられているので怒るに怒れなかった。
これが狙いだというのなら大した奴である。
僕はあまり見ないようにして自分のスパッツを取り出す。
上のシャツは都和が用意してくれた。
そうこうしている間にノックが聞こえた。
「……周さん?」
ゆっくりとおどおどと部屋を開ける小夜。
行くしかないようである。
気分は戦場へ赴く戦士である。そんなこと言ってると戦士に怒られそうであるが。
「先に行ってますよ……?」
都和がいるせいか直ぐにドアは閉められた。仕方なく小夜に追随しようとしたところで都和に手を掴まれた。
「なに?」
「いや、なんか止めたくなった」
「変なこと言って……」
「なんだろう。ムカついた」
「何に!?」
「んー」
都和は僕の目を見る。
僕も見ることになる。
目の色は変わっていない。
けれども、目は僕を見据えていて手の力はゆっくりとだが強くなっている。
「怖いよ都和」
「周は昔……私と会っているよな?」
確信めいた言い方だが、裏は取れていない言い方だと僕は思った。
だから、誤魔化すのは簡単で。
「どういうこと? 都和は僕と昔会っているの?」
とぼけた顔をして聞き返してしまった。
罪悪感がゆっくりと僕を苛む。
その速度を味わうかのように僕は都和の拘束を剥がした。
「お風呂に行かなくちゃ。小夜が待ってる」
「……ごめん」
「都和。気にしなくていいから」
僕は笑みを作る。作り笑いは簡単だ。
部屋に出てドアを閉めてから僕は一人ごとのように呟く。
「わからないまま育ってしまったのか……」
僕はなぜ都和を利用していたのか。
伽羅に会ったらわかるのだろうか。
伽羅が僕を呪っているのだろうか。