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とりあえず、強く抵抗し僕は肩から下ろしてもらう。
「天霧都和だな?」
「ああ?」
同意しているが敵意を露わにしているのがわかる。確かにいきなり部屋に見知らぬ人が入ったのだからそうなるか。
僕は間に立ち、二人の距離を離す。
「玖乃、僕でも怒るよ」
僕も少し敵意を示す。
それに対し玖乃は慣れた手つきで僕の頬にキスをする。
一連の流れは見事だが、思わず手が出た。
「痛い!」
表情が明らかに喜んでいたので足も出してやろうかとも思った。
「えっと、なんだ。別に不真面目な話をしにきたわけじゃない。聞きたいことがあったんだ。禁書と聞いて何か頭に思い浮かばないか?」
「……」
都和は黙っている。
心当たりがあるというのだろうか。
「模倣性の概念」
「?」
僕は首を傾げる。
都和も反応が曖昧だ。
それを見て玖乃は帰っていく。
「すまん。気のせいだったようだ」
お詫びと言わんばかりによくわからない金貨を一枚置いて行く。
あっという間の用事の済ませ方に僕は驚きつつ、後ろ姿を追いかける。
「玖乃!」
「んあ?」
廊下で確保。
とぼけた表情をしている。
「ほっぺたじゃ我慢できないって? 仕方ないな。舌を出しなさい。二枚程」
「僕は貝じゃないし、キスをせがみに来るほどに頭はやられていません」
「つれないな。世界で三番目に好きなのに」
一番目と二番目は誰なのだろうか。怖いから聞かないけれども。
「玖乃は都和に何を聞いたの?」
「天想代力の秘密が書いてあるらしいという禁書のことさ。最後に目撃したのは都和らしいんだがなー。まあ、自分だって解決したい悩みがあるってことさ」