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「都和は……」
「ん?」
「僕のことを覚えている?」
ベッドに座りつつ僕は何気なく聞いてみる。
「どういうこと? そりゃ、私のせいで連れてきたことは覚えてるさ」
「そうじゃなくて十年前に僕と会ったみたいなんだけど」
「んー……流行りのナンパか?」
覚えていない様子。
それはそれで助かると言えるのかもしれない。
あまり知らない僕から話すのもおかしいので違う話をした。
それはとても他愛もない話だ。
好きな漫画や、嫌いな授業。
今の自分の中のブームや、家族のこと。
僕は自然な笑みを浮かべていた気がする。
「ところで、私の問題ってどうなっているんだ?」
ふと、都和はそんなことを言う。
順調なのだろうか。自分で考えていてもわからない。
「進展はあった」
とだけ言っておく。
その進展が都和の思い浮かべるものではないだろうけれども。僕だけが進んでいる。いや、戻っていると言うべきなのだろうか。
人格を追い出す方法……か。
そもそも反転は十年前からいたのだろうか。本当に都和の敵なのだろうか。
「そうだ」
そういうとベッドに座っている僕の足の間に頭を入れる。
ベッド下に用事があるみたいだがなぜ僕の足の間から入るのか。
僕が困惑していると、怪しいスーツケースが出てきた。
「なにそれ、旅行するの? それとも帰省?」
「前払いしようかなーって」
僕が首を傾げていると都和はケースにかけていた鍵を外し、中を開けて見せてくれた。
「うわぁ……」
結構な札束だった。
「……自首しよう?」
「なんでだ! 言ってただろうが」
人格の問題でそんなことを言っていた。けれども、あれは僕が覚悟を決めるために吹っ掛けた値段であって別に欲しいわけではなかったのだが。
てか、なぜに現金なんだ。