157
「それで伽羅はどうして今このタイミングでここに来たの?」
「周に天想代力が戻りつつあるから」
それはどういう意味なのだろう。
「周は私が好き?」
「なかなか答えにくいことを……まだ記憶が戻らないから保留で」
「直観的で良い。好きか嫌いか。それで私がどうするか決める」
まさかターニングポイントではないだろうな。
ここで好きなんて嘘を吐くのは簡単だけれども、嫌いなんて嘘も吐きたくない。
「遅い」
僕は伽羅の促しに弱く答える。
「……好き」
だとは思う。
伽羅は満足そうに声のトーンを上げる。
「やった」
選択肢がミスでないことを祈るばかりである。
「一つ聞いていい。どうして僕と伽羅は別れているの? その身体は誰かの借り物なの?」
「難しい。うーん、あんまり記憶がない周に言うと不利になっちゃうかな」
「……誰が不利になるのさ」
「私」
何に対してだ。
「でも、私は周が望むことを十年かけて叶えてきたつもりだから」
そういって、顔を近づける。
十年前の出来ごとが関係するのか。もう少し聞いておくべきだったか。
唇が再度触れあうかどうかのタイミングで、ドアがノックされた。
「……また来ます」
名残惜しそうに伽羅はそういって消えた。
再現性での場所移動だろう。
伽羅の思惑がわからないが、決して僕にとってプラスだけのものでない気がする。
「はい、入ってます」
僕がノックに対して答えると返ってきたのは小夜の声だった。
「ここにいたんですか?」
普段の声のトーンなのに、やましいこともしていないつもりなのになぜか窮地に立たされている気がする。
そもそも僕はまだ下着を下げたままでトイレを行っていないのだ。
「まだ? ねえ、周さん」
「待ちなさいって……」
こうして落ち着かない気持ちでトイレをする羽目になった。
「なに?」
トイレから出て僕は小夜と相対する。
「んー」
ゆっくり抱きつかれた。
伽羅の抱きつき方は違い、なぜかあまりいやらしく感じなかった。
「今日は……一緒にお風呂に……ぃいいい」
それでもいやらしい子だった。だから恥ずかしいならそんなことを言わないで欲しい。




