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トイレが危険だと思ったのはこれで二回目だ。
淡い白紫の髪の少女が僕に近寄る。
小夜とも姫城さんとも違うタイプの年下だ。
なにより、二人にはない胸の大きさがある。
玖乃がいたらロリ巨乳の定義を教えてくれそうだが、いなくて良かったと心から思う。
「あーまねっ!」
少女の表情は変わらないものの、嬉しそうなトーンで僕を呼び、僕の唇に口づけする。
一回、二回、三回。
それはついばむように。
しかし、次第に長くなる。
「ちょっ!」
天想代力を使いすぎたためだろうか。流れてくる力が心地よ過ぎてつい抵抗が弱くなってしまう。
「やっぱり忘れていてもわかるものなの?」
「なにが……?」
トイレなので距離は取れないので手で口を押さえる。それでもなお、手でもキスをしてくる。しかも僕の首に手を回して。
というか抱きついて僕に体重を預けてきた。
わりとえげつない破壊力だ。
「私がわかります?」
「……」
顔までの距離は二十センチ。まるでわからない。
しかし、幼くクールな表情はまるで僕にわかって欲しくないように見える。
僕は少女のロングのポニーテールを引っ張り、顔との距離を剥がした。
「あぅ」
初めて見る顔だと思う。
可愛くは思うけれども、小夜より病んでいる気がする。
「とりあえず、離れてく……んんっ!!」
キスのタイミングが強引過ぎた。
しかもキスをしながら下腹部を軽く押してくる。
まるで排泄を促しているようでもあった。
僕はその手を払った。
「んんー、しても良いのに」
そんな趣味はない。
「……はなれれなはい!!」
呂律が少し回らない。
心地よさに身体が弛緩している。
それでも天想代力が嫌でも溜まったのでようやく反撃開始。
「君は……だれ?」
「ないしょ」
僕が昔好んでキスをしていた相手だろうか。
目の色はオッドアイではなく髪の色と同じ紫で天想代力を使おうとはしていないようだが。
「目的は?」
「周といちゃいちゃ」
「……本当の目的は?」
「冗談に聞こえる?」
そういうと、少女は上着を脱ごうとしていた。
「くっ!」
慌てて僕は抑える。
「着たままが良い?」
わりと洒落にならない相手だ。
小夜と同じく制御不能な人物だ。
僕は咄嗟に天想代力を起動。
五秒かかるが、例え拘束されていたとしても相手が天想代力を起動していなければ逃げ切れる。
はずなのだが。
「あれ?」
「使わせません」
オッドアイになっていないのにも関わらず使えなかった。
「そういうキャラなの?」
そう尋ねると彼女は嬉しそうに言う。
「はい、伽羅です」
なにかアクセントがおかしい。
「待って……伽羅?」
「はい。え、あっ」
僕の天想代力の人格だった。
確証はしていないが、どこかで伽羅だと確信してしまう辺りは絆なのかもしれない。
伽羅は少し罰の悪い表情を浮かべると僕から離れようとするので咄嗟に抱き締める。
「大胆」
「そうみえるかもしれないけど……なんで隠してたの?」
「知らない方が周との距離が遠いからその距離を楽しもうと思って」
頭が痛い思いだ。