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話はなぜか廊下で行われた。
「ここで言いましょう」
「部屋じゃないの?」
「別に部屋でも良いのですが……」
どこか引っかかる言い方だ。
「良いですけど、なんですか?」
「裏千華が話したがっています」
珍しい。
といっても、都和のところに入らないようにしてくれたということになったので今のところ僕からあまり裏千華に会うメリットは少ない。
断ろうかとも思ったが、交流することも悪くないかと思い僕は頷く。
「良かった。では、十時にこちらに来て下さい」
すぐにではなかった。
別に今の僕は天想代力が使えて勝てなくても逃げれるのでいつでも良いのだが。
「それと周様」
「はい?」
「屋敷に私の知らない人の気配がします」
「それってどういう意味?」
「わかりませんが……気を付けて下さい」
ふと頭に過ったのは玖乃だった。
「はい」
僕は黙って頷いておいた。嘘を吐いてはいないにしても少し心が痛む。
千華の話はそれだけで、少し晩御飯まで休んでいますというと部屋に消えてしまった。
ふと扉の隙間から見えたモノは壁に刺さっているナイフだった。
裏千華の趣味なのだろうか。そりゃ、人は入れられないか。
大広間に戻ろうとしたとことで携帯が震えた。
気がした。
マナーモードでびくともしないはずの携帯が確かに主張した気がする。
「……まだ二年も使っていないのに」
だがメールは来ていた。しかも怪しいメールだった。
都和の部屋で天想代力を回復する。
小夜の部屋で辱め(十八禁)を受ける。
楔の部屋で怒られる。
羽衣の部屋で落ち込む。
ちいろの部屋で戸惑う。
千華の部屋へは入れない。
玖乃のいる浴室で男に戻る。
個室で私に会う。
「……」
どこも行きたくなかった。
「とりあえずは逃げようかな……」
時間稼ぎと言わんばかりに僕は一階の廊下の奥のトイレに入る。
今回はしっかりと鍵を閉めて。
もう一度言う。
鍵はしっかり閉めた。
「よいしょ」
直穿きのスパッツを脱ぎ、僕は便座に腰掛ける。
「やっと、個室に来た」
「うぇえええ!?」
安住の地はなかった。