153
「おっと」
先程の家庭科室に戻ると中には姫城さんしかいなかった。
楔は僕を追ってくれたか。
扉を中から閉め、とりあえず一息。
「何をしているんじゃ?」
「一人一人にしたかったの」
説明もろくにせず、僕は楔に電話をかけた。
ところでドアが強く叩かれた。
「……ぐ」
早過ぎる。
しかも複数音。
「なにしているんですか!」
電話口では説教の言葉。
「……返す言葉はないよ。ところで三人組は?」
「今は家庭科室の前をじーっと睨んでますがここにいるんです?」
僕をどう探しているのか。
目は見えないと思うのに。
まさか嗅覚でもあるまい。
「姫城さんはどうすればこれが収まると思いますか?」
「……天想代力に変わってみるかの?」
少しいやそうだ。
恐らく抵抗した結果そうなっているだろうし。
「姫城さんにとって天想代力ってなんですか?」
「過ぎたるものじゃ。使いたいことはあるが我慢しておる」
「今回の暴走に心当たりは?」
「……」
だんまりか。
僕は姫城さんを諦め、違う解決策を考えていると。
不吉な声が聞こえた。
「動くな」
途端に緊張が走り、僕の手から携帯電話が滑り落ちる。
電話では楔の声が、いや扉の向こうからも聞こえたがそちらに割く余裕はない。
「んーっと、俺様参上!」
キミだった。
すいーっと近づいてくるが、僕は動けずにいる。
「ほぅ、今回はよく俺様の声が響くようだな」
下品に笑う。
「さてと、俺様も思いがけない展開だ。美味しいな」
「……」
「話すことは許可するとしよう」
「姫城さんから出て行ってくれる?」
「やだ」
返答は子供だった。
「そもそも俺様がいるからストレスが溜まりにくいんだぞ。良いから周は黙って俺様のものになっとけって」
そういうと僕を押し倒そうとする。
抵抗はなんとか出来た。
「くっ!」
強要も中々使いにくい能力なようで。
なんとか、身体の動きが止められても良いので僕は姫城さんを後ろから羽交い絞めにする。
「ストレスの原因は?」
「んー、交友関係とか家とか周とか?」
「しれっと僕の名前を出さないの!」
「いや、でも割と伊織のお気に入りなんだぜ?」