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「伽羅?」
少し離すと僕の膝に頭を乗せて横になってしまう。
こんな子だったっけ。
記憶が致命的に呪われているせいか再認が出来ていない。
「玖乃って伽羅を知ってる?」
「いや、周はそんな天想代力を表にしないからわからんぞ」
「んー」
困ったものだ。
僕の疑問に対して伽羅は何も答えてくれない。
ただ、僕の膝にいる。
何もせず、ボーっと僕を見ている。
それでも良いかと思ってると、寝てしまう。
まるで赤ん坊のようだ。
僕は髪がぐしゃぐしゃになるように手櫛で梳いていると唐突に玖乃が話し始めた。
「ところで寒い冬の日にさ、あのとき期末テストに負けた周が罰ゲームとして大雪の中、仮装してグラウンドを走ったよな」
「ん、まあそんな罰ゲームもあったっけ」
あんまり思い出したくない。
身体がかなり冷えて風邪を引きそうだった出来ごとだ。
「あのとき汗と雪で濡れた髪に寒さで赤くなった頬にえろすを感じました。匿名希望の玖乃さんからでした」
「……唐突なセクハラだけやめてくれる?」
「嫌だが?」
嫌らしい。何も言うまい。
悪い子ではないのだが。
「さてっと、俺がここに来た意味なんだが……」
「なに? 服返しに来ただけじゃないの?」
「いや、なんか面白そうだなって思ってだ」
ノリが軽い。
「……何を期待しているの?」
「そりゃ、ハーレム展開を」
「目指してません」
「割と祝福されてるのにな。周は天想代力に好かれてるし」
「……美味しいって言われたけど」
「好物ってわけだな」
そんな好きな食べ物に周って言われてるみたいで嫌なんだけど。
三時のおやつはあまねよーなんて言われたくはない。
「そういえば……玖乃は天想代力の人格とミックスなんだよね?」
「おう」
「天想代力は僕を美味しいって言ったよね」
「おう」
「もう一メートル離れてくれる?」
「君のように勘の良い悪友は好きだぜ?」
安心できる要素がまるでないのだけど。
「大丈夫。俺は割と守備範囲広いから」
「なぜそんな話をする!」
「んー。周と付き合ったら小夜と三人で出来るかなーって」
「何を!?」
ひとしきり取り乱す僕を見て玖乃は笑うと、さらりとすごいことを言った。
「そういえば、周の膝で寝てる子って十年前によく周がキスしてた子だよな?」