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助けが来たと言うよりは戻ったと言えば良いのか。
「再現性……」
僕はゆっくりと口走る。
その瞬間、湯船には水しぶきが立った。
誰かが飛び込んだかのような。
まるで昨夜、キミが飛び込んだかのような。
「あらら、いじめ過ぎちゃいました?」
楔と変わらない笑みを浮かべたまま、干渉は僕から一旦離れた。
それでも一メートルもない。
「使い慣れていない力でしょう? 今なら優しくしてあげますよ」
確かに使い慣れていない力だ。
今の僕は。
「再現」
ならば、使い慣れている僕に戻ればいい。
僕は自身の力が満ちるのを待ってから、干渉を睨んだ。
「あはは、可愛いわね」
だが効果は薄い。
確かに十年前の姿になることはなかったか。というか、最悪精神も戻ったら僕は記憶喪失になっていたかもしれない。
それどころか使い慣れていない力なのにいきなり飛ばし過ぎたか。
危ないところだった。
まあ、良い。
こつは掴んだ。
戻って戻る。十年前から十年後へ。
細かな調整も出来るので服を着る。
身体も精神状態も万全に戻す。
「楔も服を着ようか」
「あら……」
干渉の口元が歪んだ。
中学の制服が印象強すぎてそれになってしまったためだろうか。
「さてと」
僕は考える。楔に戻す方法を。
軽快に飛ばしたので天想代力がなくなってきた。
能力で天想代力自体は戻らないらしい。
出来たら強すぎるか。
「もう少しいじめさせてください……な!」
ハイキック。
スカートがひらりと舞う。
僕らは湯船の中から動けていないが、干渉は水の抵抗を受けていなかった。
これも干渉か。
僕は咄嗟に受け流した。
受けそこなって倒れてしまったら負けだろう。
再現性を使えるのはあと一回とすると最適な手はなんだろうか。
「考え事ですか?」
「ぐっ……!」
場所が不利過ぎる。
足技主体なのは有利からだろうか。
湯船から出ようにも隙が見当たらない。
少しハイリスクだが、悩む暇はない。
僕はハイキックを受け止め、そのまま押し倒した。
折角の服は全部濡れてしまうが仕方ない。
「誘っていたんですよ?」
ゆっくりと倒れて行くときに干渉は不吉なことを言った。
湯船に僕ら二人は倒れる。
水の干渉を受けないということは恐ろしいことに呼吸が出来た。
「ミスですね。こうして私が貴方を抱きしめているだけで酸欠になるのですから。地上と変わりない拘束から逃げられますか?」
僕は答えない。酸素が無駄だから。
再現性もまだ使わない。
「まあ、安心して下さい。別に殺そうなんて思っていませんよ。私たちは周のことが大好きなんですから」