135
いなくなってから、大胆不敵に僕に近寄ってくる。
「なに、二人きりになりたかったの?」
「そんなロマンチックなことじゃないって……」
僕は目を伏せながら答える。
楔はわざと隠していないのだろうか。
「えっと、僕のタオルを上げるからまず身体を隠してくれる?」
僕はバスタオルを渡そうとして小さく絶句した。
いつの間に。
楔の目の色が変わっていたのだろうか。
「……楔なの?」
「そう思う?」
いやらしく笑われた。
楔の笑みと変わりないのに胸がざわつく。
僕は足をばたつかせる。
だが、やはりびくともしない。
「初めまして……干渉の概念です」
ゆっくりと湯船の中に入り、僕の前に回る。
僕が固定されている足首のところをやわりと触る。
すると拘束が解けて行く。
だが、暗に逃げられないと強制的に悟らせられた。
「芝居は良いですよね。自分を抑え込むだけで皆が勝手に勘違いされるのだから」
「楔の中に……人格はいないんじゃなかったの?」
「私はずっといましたよ。ただ、いないふりをしていただけで」
「なんのつもり?」
「つまみぐいですよ」
なんのことだろうか。
僕はが不思議そうに聞いていると干渉の概念は楽しそうに言う。
「あら、貴方はどうしてこんな目に遭っているのかまだわからないの? なぜ、好意が向けられやすいかわからないの?」
どうして、貴方は人格がいないのかわからないの?
干渉はゆっくりと僕に密着してくる。
柔らかな肌とお湯に比して温い肌。
心地よく、僕の頭は陶酔する。
そこからは一方的に触られて、撫でられて、キスされて。
浮くような快感を受けて僕は意識を失いそうになるときになって。
「なにをしているの」
助けが来るのだった。