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出来るだけ丁寧に洗うことにする。
視界の半分くらいは目の毒なので髪と手元に集中。柔らかい髪質は手入れがきっと行き届いているためだろう。
「上手じゃの」
「そんなことないですよ」
当然お世辞だろう。
姫城さんの髪を洗う人なんて熟練者ばっかりなのだから。
洗われ慣れているのか、姫城さんは特に身動きしない。
ちらりと楔を見ると僕を見てにこりと笑う。
「……」
見ておいてなんだが、少しは隠してくれませんか。
「……はい、おしまい」
痒いところも聞かずに僕は流した。
「んむ、次じゃの」
「次?」
「もう一度シャンプーしてトリートメントじゃろ? そして身体も洗って欲しいのじゃ」
僕は視線で楔に助けを求める。
情けないがさすがに耐性がないのでこの刺激はつらい。それに天想代力がわがままでいつ僕はキスしに行くかわからないので僕は湯船に逃げた。
二人に背を向け、精神を落ち着かせる。
深呼吸。
ゆっくりと息を吸って吐く。
何度も繰り返したが、二人の甘い声に邪魔されて上手くいかなかった。
それでもなんとか落ち着いたので風呂から上がろうとして。
「へ?」
両足を掴まれた。濁り湯のため詳細はわからないが明らかに手の感触だ。
咄嗟に僕は足を引く。
だが、まるで動かなかった。ピクリともしない。無駄に力を入れるとこちらがまいりそうだ。
軽くホラー。
「はい、終わりましたよ」
「うむ、ありがとうじゃ。少し喉が渇いたから早めに上がることにするかの」
「そうですね。私も上がりましょうかね」
ちらりと僕を見る楔。
目が合う。
僕は困った表情をしていたと思う。
「……すみませんが、もう少しだけ湯船に浸かることにします。あとで髪の毛を乾かすので部屋で待っていて下さい」
「わかったのじゃ。すまんが頼むの」