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「いや、別に私の話じゃないんじゃが……ただ、その本に書いてあったからのう」
「まさか昨日落ちていたえろい本を持って帰ったの?」
「う……」
図星か。
それが女性同士だったのだろうか。
「そういう世界はあると思うよ。ただでさえここは女の子が多くて行き場もない感情があるだろうし」
「ぐぅう!?」
混乱していた。
日に日に威厳がなくなっていく会長を見ながら僕は前向きな言葉を返す。
「まあ、大多数は異性が好きになるので気にしなくても良いんですよ?」
「本当かのう?」
「ええ」
少し安心していたように思える。
でも、異性向けのえろい本でもこれぐらい取り乱していたと思う。
「こほん。七海よ、ありがとうなのじゃ」
威厳性皆無。
それでも良いと思う。
その後、三十分経っても都和は帰って来なかった。
「むう」
姫城さんは不満そうな顔を浮かべていた。
「お風呂ですかね。それにしては遅いですが」
「そうじゃ、まだ私はお風呂に入っておらんのじゃ」
ちらりと僕の方を見てくる。
咄嗟に僕は目をそらす。
「裸の付き合いでもするのじゃ」
逃げられないらしい。
断りも考えたが、姫城さんであれば他の寮生に比べて目に毒ではないので僕は飲み込んでおいた。
それにしても三十分前に女性同士の恋愛について聞いて来たとは思えない誘いだ。
姫城さんと一旦別れ、僕は着がえを持たずにそのまま脱衣所の方へ向かう。
その道中で僕は羽衣に会う。
都和の部屋を目指していたのだろうか。
「おつかれさまっす!」
「料理、おつかれさま。美味しかったよ」
「照れるっす。大部分は自分が頑張ったんっすよ?」
胸を張る羽衣。
「次は何を作ってくれるの?」
「やだなあ自分じゃちいろ先輩にも、楔先輩にも勝てないっすからもう作らないっすよ」
普通に美味しかったのだが。僕の味覚がそこまで気にしない程度には。
料理をすると二人の差がわかるのだろうか。
そういえば、辛さの微調整をちいろがしていたっけ。
それはそうと。
「なにか用でもあったのかな?」
「おっと、そろそろ自分は寝るので一応ゴミがないか聞きに来たっす」
「ゴミ?」
「ゴミ出ししてるのは自分なんで」
確か、部屋にはなかったはずだ。
僕は丁寧に礼を言うと、なぜか敬礼された。
良い子だと思う。
女の子同士の恋愛に憧れを持っていなければ。
まさかあのえろい本は羽衣の本ではなかろうな。