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「ご飯っすよー!」

 穏やかな時間は羽衣の来訪により崩れ去った。

「ちょっと早くない?」

 僕は後輩気質な少女に尋ねると、胸を張ってこう言われた。

「ふふん、上手く出来たっすから!」

 それでこう早いのか。別に僕のお腹はそこそこ空いているのだが、小夜のあの身体は空いているのだろうか。

「羽衣シェフ、今日のオーダーを!」

「はっ、都和様! 今日はかれぇなるものっす」

「小芝居はいらないから出来たてなら早く行こうよ?」

「……冷たいな周は。まるでアイスランドの夏だよ」

 わかりにくい例えだった。

 ちなみに夏のアイスランドは十度台らしい。

 他の人に比べて冷たいと言うことだろうか。

「じゃあ、出発っす!」

「はいはい」

「ところで、周先輩は小夜先輩とキスはするっすか?」

 僕はその質問に軽くムセた。

 何をいきなり聞いてくるのだ。

「どうなんだ。父さんに言ってみろ」

「しません。都和も悪乗りしないの。小夜はあくまで親戚だって」

 そういう設定を大事にしようと思う。

 いちゃつかれても誤魔化し易いし。

「つれないっす。こっちは無駄にドキドキしてるのにぃ」

「勝手だね……」

 さっきから物理的な距離は広がっていないが、精神的な距離と壁が出来上がったことに気付いて欲しいものだ。

「都和先輩とはどうなんっすか?」

「くっくっく、周は夜な夜な抱きついてくるぞ!」

「おぉ」

 話を厄介にする達人だった。

 まあ、都和の場合こういうことをしていた方がらしいか。

「おっと、急がないと冷めちゃうっす! 先に用意してるから早く来て下さいっす」

 そういって、およそ女性らしさを感じさせぬ速度で走り去って行った。

 健康的で結構だが、百合趣味だけは勘弁してほしい。

「案外、玖乃を紹介すると理想のお姉さまなんて言いそうだな……」

 小さな独り言を言いつつ、僕は男性服っぽいのから制服に着がえ始める。上着を脱いだところで気付く。

「いや、見てないで先に行っててよ」

 いきなり脱ぐ僕も悪いが、そんなに見なくても良いものだが。

「一つ良いか?」

 少し真面目な顔で聞かれた。

 僕は半裸だけど。

「この先、男性に戻れたらすぐに返るのか?」

 その問いに僕は短く答える。

 まるであらかじめ用意されていたかのように。

「未練はないよ」

 都和はそれに対し、少しだけ悲しい顔をした。

「出会いは別れだよ。別にまた会えるし、そもそもすぐに帰れるわけじゃないんだから。安心してよ、ちゃんと僕は都和の問題を解決して帰るんだから」

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