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女性服を買わないことは許してくれないらしい。
僕は少しもやりとしながらも小夜の後ろを歩いて行くのだった。
喫茶店はよく行くのか小夜が制服であっても何もお咎めなく奥に入れられた。
「ここは紅茶は美味しくないですがコーヒーは美味しいですよ。ちなみに生クリームのケーキは美味しいですがチョコレート系は普通です」
「……あ」
小夜の口車に嵌ったのは注文し終わってからだった。
「最近、美味しいのばっかりで……うぅう」
「この調子で肉を付けて下さい!」
改造計画は継続中なり。
うぅ、段々性格が丸くなっている気がする。
男に戻れば尖ると信じて僕はケーキを口に運ぶ。
「んんっ!」
美味しかった。
「えへへ。ここは一回周さんと来ておきたかったんです」
改めて店内を見る。
薄暗いながらも温かな光が要所にあり、コーヒーの豊かな香りが店内を印象付けた。BGMは小さいながらも流れておりそれを時折、女主人(年齢不詳)が鼻歌で歌うのがなかなか洒落ていた。
「良いところだね」
「両親が出会って、結婚を申し込んだところなんです」
ちょっと重たかった。
そんなところを気軽に紹介しないで欲しい。
「さてと、悪いけれども十年前の話を聞かせてもらえる? 別に聞いても小夜の評価は変わらないよ」
「んー……」
歯切れが悪い。
「少し重いですよ?」
僕は黙って頷いた。
「あれは十年前の友達の誕生日です。あの日はホテルを貸し切り、沢山の方が集まりました。あのときの私は天想代力の人格に言われるがままに生きていました」