116
迂闊だったか。
「まさか……」
「記憶の封印は違いますよ! 誰かはわかんないです。一度会いに行ったときは私と会ったことを忘れていましたし、天想代力もなかったですから」
誰の思惑でことが進んでいるのだ。
僕に何をしたいのだ。
都和の方こそ巻き込まれただけなんじゃ……。
「じゃあ、小夜は僕が今は天想代力における概念。つまり再現性が出来ないってことも知っていたの?」
意外そうな顔をされた。
違うのだろうか。
「私と同じでミックスじゃ……」
「なにそれ?」
小夜は口元を押さえた。
言いたくなかったことなのだろうか。
その後、食べ終わるまでは僕らは口を開けなかった。
美味しいのに、どこか重い味に思えた。
お弁当を片付けてふと時間を見ると、予鈴五分前。
このまま別れると危険な感じがするので僕は行動に移す。
「小夜。今から一緒に学校サボらない?」
小夜は飲んでいたお茶を吐きだしかけた。
ムセながらも首は肯定している。
軽く背中を叩いてあげ、落ち着いてきたところで小夜はおずおずと聞いてきた。
「良いんです?」
「死ぬほど頭が痛いんだからしょうがないでしょ」
「しょうがないですね!」
そういって、小夜はどこかに電話をかけだした。
「千華。私です、周さんと今から帰りますので手配をお願いします」
電話をかけながらグーサイン。どうやら千華はかなり影響力があるようで。
僕らはこうして予鈴と共に学園を抜け出した。
だが、手ぶらのまま来ては何も出来ないので一度、寮に戻ることにした。
寮の中には意外にも楔と同じようなシンプルなメイド服を着た女性が二人いた。
「……誰?」
「ハウスメイドですよ。さすがに楔だけじゃ掃除が行き届きませんので二日に一度の頻度で日中に掃除をお願いしてあります」
寮費っていくらなのだろうか。
都和が払ったのでよくわからないがやはりというか恐ろしい額なんだろうな。
「どこか出かけます? 出かけちゃいます?」
「それも悪くないけれども。僕は服装が壊滅的にないですから制服になっちゃいますよ?」
「わかりました。周さんの服を買いに行きましょう」
「……い、いや、僕はお金がないので」
小夜は胸ポケットから財布(小銭入れぐらい)を取り出すと中身を確認してにこりと笑う。
「はい、行きましょう!」
僕は小夜の無垢な笑顔に負けてしまうのだった。