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離れると小夜は僕を椅子に誘導する。僕が座ると、僕の膝に乗ってきた。
別に重くないけれども。
「朝も周さんとこうして食べたかったんですけれどもさすがに人目が気になっちゃいますからね」
「嘘でしょ。皆いるときも座るくせに」
「そのときの気持ち次第ですが、恥ずかしいは恥ずかしいんですよ!」
お弁当を開ける。中はカラフルに作られていた。
卵焼き、タコさんウィンナー、鳥の唐揚げ、コロッケ、ハンバーグ、プチトマト、きんぴらごぼう、ほうれん草の胡麻和え、煮物。
二つのお弁当を合わせただけでこんなに種類が飛び出した。
ご飯もおにぎりとなっている。手が込み過ぎだ。
「どうですか?」
「最近、すごく餌付けされている気分……」
「やー! そうじゃなくて料理の感想です! ちゃんと頑張ったんですよ!」
それはもう不満がないというより大満足である。
箸を渡され、食事開始。見た目通り美味しい。
別に家での食事に不満があった訳ではないのだが……これも女体化のせいなのか。
「周さんにはもう少し体重が欲しいですからね」
「食べる気なの?」
「……た、食べても良いなら」
失言だったのか、僕の膝から横の椅子に座り直すのだった。
僕は横に向き直し、食事中だが聞いてみることにした。
「小夜は……僕がこの学園に来ることをどれだけ知っているの?」
「私は蚊帳の外です。そもそも私は卒業してから周さんのところに行こうとしてましたから」
「んー、それはどうして?」
「私の家系は……成長が遅いのです」
失礼だけど。
「小夜って、もう十八歳だよね?」
「母親はここから身長を十五センチ、胸のサイズを三つあげてますもん……」
「呪いなんじゃ?」
「呪いなら解けますが……遺伝ですから……」
少しよわよわしいトーンだった。
「でも、再会は早い方が良いですもんね! 周さんに彼女はいなかったし、好感度も……少なくとも好きよりですよね?」
弱気だった。
「好きよりだとは思うけれども……」
「わかってますよ。最近まで呪いで女の子に苦手意識を植え付けられてたんですもんね?」
恋愛感情が歪んでいる。
「……怖いほどの理解者で困ります」
「えへへ」
褒めてはいないのだが。
まあいい。
「小夜、十年前のことを聞いても良い?」
「んー。お昼中に話しきれないですよ。夜まで待てます?」
「途中まででも良いから」
少し嫌そうな顔をされた。小夜にしては珍しい。
「……しょに」
「ん?」
「今日こそ、一緒に寝てくれるなら……」
さらに珍しいかもしれない。十年前はアンタッチャブルなのだろうか。
「一緒に寝るだけです。何もしません。手錠で縛りつけても良いですから!」
「ちょっと、待って。十年前の話ってそんなに気楽に話すようなものじゃないの?」
僕は小夜の言葉に少しだけ驚く。
「だって、あのとき私は周さんとは敵でしたもん……」




