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「我儘な王様」
少し探ってみた。
「あ、お姫さまだろ?」
どうも中身は女の子らしい。
仕方ないと僕は少しだけ我慢した。
大体、二十秒ほどだけど。
「さて、あがるから退いて下さい」
軽く脇を持って横にずらす。浮力と姫城さんの身体が軽いこともあり楽々に動かせた。
「あ、この!」
怒られた。手は出ないけれども睨まれる。
「あんまり長湯すると茹っちゃうの」
かれこれお風呂に入って二十分は経っているので僕は満足したのだ。
「誰が俺様の身体を洗うと言うのだ!」
「自分で洗いなさい」
僕は身体を軽く洗い流し、脱衣所へと戻った。脱衣所は風呂場と比較するとやはり涼しく、火照った身体には嬉しい。
バスタオルで身体を拭いていると僕の前にキミがいる。僕に更にバスタオルを渡してきた。
子どもだ。少なくともこの寮にいる誰よりも。
「自分で拭きなさい」
「しろ!」
「して下さいでしょ……僕はちいろと違って人のためにしてあげるなんて気まぐれでしかないの」
「むー」
「僕はあがって、もういくけれども姫城さんの身体を使うならちゃんと身体のケアをしなさい」
天想代の人格に対してこんなにフレンドリーなのもどうかと思う。姫城さんが苦労していたところで僕が面倒をみていたらいつになっても帰れなくなるので必要以上は介入をやめておく。
裏千華に会ってちゃんと話をしないと。
僕は着てきた服を着ようとして、少し驚いた。
「……不器用」
キミはバスタオルをろくに使わないで、ほとんど濡れたまま服を着ようとしていた。
着ようとしている服は下着から破れている。
風呂に入るために脱ぎ方がわからず破いて脱いだのか。
「出来ない子なのか……」
そもそも姫城さんは髪を自分では洗わない人だ。
「本当にお姫さまなのか?」
「なに!?」
気品は感じないので、姫だとしても野生の姫に見えるが。
「うぅ、よくわからん! 俺様の世話をしろ!」
「ため息一つ……」
呟いて深呼吸。ため息なのかよくはわからないが、僕はきまぐれを起こす。
人の頭を洗うなんていつぐらいだろうか。
「髪を持つな!」
せっかく身体を拭いたけれども、このまま姫城さんを部屋に戻すのは忍びない。
「覚えなさい」
僕は風呂場に連れていき、座らせた。
「にひひ」
こちらに振り向きいやらしい大きな笑みを浮かべた。構われるのがお好きみたいで。
前を向かせる。
髪を濡らすことに抵抗はなく、洗われ慣れている印象を受ける。