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だが、咄嗟に構えた姿勢を再度構えることになった。
「姫城……さん?」
服を脱いでいる。
当たり前だ。ここは風呂場だ。裸の付き合いをするところだ。
そうではない。
目を奪われた。
幼い肢体なのに、傷一つなくまるで芸術品のようである。それは色気とは対極だが、なぜか心がざわめいた。
「いっ!?」
姫城さんは僕をゆっくり見て、身体に不釣り合いなひどく歪んだ笑みを浮かべた。
目はオッドアイに変わっている。
ホラーだ。
天想代力だと知っていても怖い。
その、変貌した姫城さんは僕目掛けて跳躍した。
まるで幅跳びのように膝を屈伸して、上半身の力も使い五メートルは離れているであろう湯船目掛けて跳んだ。
「あはははははははははははははははははははは!!」
水しぶきがひどい。
視界と水圧が僕を責める。
「くっ!」
「遅ーい!」
そのまま、僕は押し倒される。
勢いが良いが僕の後頭部を支えるように、姫城さんの左手が回って鈍く軽い音が聞こえた。まさか折れたのではと思ったが、問題は別だ。
「ふふふふふふふふ!!」
ゲスい笑みだと思う。いつも漂う気品さはない。
それでも綺麗だとは思う。
「な……なんですか?」
おずおずと僕は尋ねる。距離はゼロ距離。
密着している。
おのずと体温が伝わるので恥ずかしい。
「気に行った。お前をもらう」
「……へ?」
「数の戦いを見ていた」
「裏千華の?」
確かに姫城さんに見てもらっていたが。
「俺様は欲しいものはいただく」
戸惑う僕を置き去りにして彼女は言う。
「俺様は強要の概念だ。誰も俺様には逆らえねーよ」