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僕らは黙って受け入れた。
それにしても、小夜が静かだ。
二人がいるからこそ自制しているのか。それにしては先程、人前で甘えてきたが。
「おい」
「あ、ごめん」
いつの間にか目の前に割りばしが差し出されていた。
数字には二番と書いてる。ちいろから渡されたので細工されていることはなさそうだが。
「私ですね。えっと……二番の人が」
小夜が王様になって途端に僕は身構えてしまった。
さすがに数字はばれていないはずだが僕をピンポイントに指名する辺り、なにか細工があったのだろうか。
「ごめんなさい。ふらつくので私を部屋に連れていって下さい」
だが、なんというか拍子抜けだった。
「大丈夫か? えっと、二番は?」
「僕だね。水を持っていって少し介抱するよ」
三杯以降はあまり飲んでいないように見えたが、やはり体格的につらかったのだろうか。
「早く帰って来てっす!」
とりあえず、僕はこの場を離れることになった。
入れ替わりに都和とすれ違う。小夜が酔ったので介抱してくると言うとなぜか無言で親指を立てられた。僕は微妙な表情を浮かべて都和と別れる。
現在、僕は別に肩を貸したり身体を支えたりといった介助ではなくただ手を繋いでいる。
足は多少ふらついている様子だが、倒れるといった心配までは必要無さそうだ。
小夜の部屋に行き、僕は小夜をベッドに座らせた。
「お酒弱いなら無理しなくていいのに」
するとにこりと小夜は笑い、言い放つ。
「エスカレートして周さんが誰かにキスするようなことを避けたくて嘘を吐いちゃいました」
独占欲が強まっている気がした。
「それに人前で周さんとキスするのはさすがに恥ずかしいです……」
上着の袖で顔を抑える。
頬が赤いのは羞恥かはてさて酒か。
「周さん、ぎゅーって抱きしめて下さい」
いつもなら素っ気なく僕は離れるが柄にもなく抱きしめてしまった。
「んふぁ」
耳元でこぼれる甘い声が悪くない。
しばし、抱きしめておりお互いに酒によって火照った身体の体温を感じていた。
それはとても心地よくて、甘い太陽の良い匂いがしてそのまま寝てしまうのが幸せだと錯覚するほどだった。
しかし、次の一言で氷水を頭からかけられたかのようにぎょっとして目覚める。
「もう、我慢できない」
そういった小夜の目の色はすでにオッドアイになっていた。
「待って、小夜は僕の味方だよね」
起き上がり、距離を取る僕。咄嗟の予防線は糸のように千切れる。
「本当は私はめちゃくちゃにされたい方ですし、嫌なことはしない主義ですがさすがにこんなところでお預け喰らうぐらいなら周さんをめちゃくちゃにして私なしの人生なんて考えさせないようにしてあげます」